12歳の悩み

「今度やったら先生に言うから」と息子が言ったあとは殴ってこなくなったF君、いまは殴るふりで撫でてくる。そのFくんが訊いてきたらしい。「お前、チクり魔?」。
「そうかもね」と息子が答えたら、「そんなことしていたら、友だちができないよ」と言われた。さらに「中学高校は成績と友だちが命よ」と言われて、それについては反論できなくて、「そうだね」と答えた。

それはさ、Fが告げ口されたらどうしようと怯えているから、友だちできないぞ、って脅してるんだよ。そろそろ、日記がFくんの番でしょ。
と言うと、ああそうか、とようやく理解している。
連絡帳に日記を書く欄があり、いまはテーマがクラスメートの話で、出席番号順に○○くん✕✕さんについて書いていっている。息子は女子についてはほとんど、男子についても半分以上は「謎です」「まだよくわかりません」と一行終了、何か書くときは必ずほめる(たいていは、遠くから通学していてえらいなあ、と書いている)が、さてFくんについて何を書くか。

……「今度やったら先生に言うよ」と言うと、「チクり魔? 友だちできないぞ」と言われて、非常に悩むところです。……
って、書いていた。

いまは殴るふりして撫でてくるけど、息子は安心してない。他の子を殴ったりしてる?ときいたら、そういうふりはしても、ぼくほどひどくはしてない、と言う。なるほど、小学校のころは相手かまわず殴りたいという連中もいたけど、Fはそれなりに狙いをつけているわけだ。
私が気になっているのは、自己紹介のカードの好きな本の蘭に、息子が、地図帳、時刻表、と書いたことについて、Fくんが、「そんなこと書いたら、みんなドン引きするよ」と警告してくれたことと、息子がそれを気に病んだことで、
そういうところに微妙につけこんでくる奴っているのだ、

そこには嫉妬とずるさがあるよ、正しい友だちの在り方ではないから、気をつけなさいね、と息子には言った。

音楽の授業のこともなあ、みんなが楽しくやってんのに、仲間を売るわけ?
という話になるだろうから、自分の苦痛ひとつ訴えるのに、彼はやたらに悩まなければならなかったわけだけど。
訴えが、先生に通じたかどうかわかんない。今度また音楽の先生に言ってみると息子は言っているけど、音楽の先生が自分で何とかできるんなら、すでに何とかなっているだろうけど。

息子は、自閉症スペクトラムのことは先生にも言いたくないし、知られたくない、特別な目で見られたくないし、特別扱いもされたくない、と言い出した。黙っていてもわかる人にはわかるし、まわりにもいっぱいいそうだけど、息子の気持ちもよくわかるので、彼が学校でやっていける間は、私も言わないことにする。ぼくは自分でスキルを身につける、という彼なりの自負心でもあるのだろう。

だいたい、だれがどう言おうと、ぼくはぼくでいいんだと思いきれない弱さが、きみの苦しさの原因なんだと思うんだけどね。
でもきみが、尊敬心をもってつきあえる友だちは、成績が良くても悪くても、学校に行けても行けなくても、自閉症でもそうでなくても、自分は自分だとわかってて、努力したり、やりたいことをやっている友だちだと思うよ。きみもそんなふうであるべきなんだよ。

12歳の悩みとしては、なかなかなもんだと思う。
学校休んで療育に行くということは彼はいやだと思うし、スクールカウンセラーに予約いれようかな。