針と糸の空中遊泳

家庭科で裁縫をするらしい。
「洪水ちゃんは、針と糸を空中遊泳させるから、危なくて、近寄れないんだ」
と息子は言うが、きみだって負けないほどの空中遊泳ぶりだった。
手もとの布でなく、虚空を縫い閉じていたんだろう。
指2本入るほどの縫い目だった。ほんの去年まで。
そんなわけで、私がワニのアルバートを縫っている横で、
台所の布巾を縫わせてみた。着れなくなったシャツで。

「なんでそんなに雑なのよ」と思わず言ったら、
「教え方が雑なんだよ!」と言い返された。
たしかに。

できるだけ細かい縫い目でねー、と言ったら、だんだん細かすぎる縫い目になる。
もうちょっと大きくてもいいよ、と言ったら、大きすぎて雑になる。
ちょうどいいのがちょうどいいんだけど、ちょうどいいってなんだよっ、
って話だよなあ。

5ミリ、5ミリにしましょう、目安は5ミリ。
場合によっては1センチがいいかもしれないし、3ミリがいいかもしれないけれど、今は5ミリ。

洪水ちゃんのように針と糸の空中遊泳をしているわけにもいかないと思うのか、素直に真面目に練習していたことだった。

ところで、息子が見つけた洪水ちゃんの美点がすばらしい。

「洪水ちゃんのいいところは、人の良い点を見つけてほめるときに、本当に心からほめることなんだよ、それはなかなかできないことだよ」