夏の旅 フィリピン 5 インディペンデント

7月30日、月曜日。グレースがイントラムロスに連れてってくれるっていう。マニラの観光地。

まずジプニーで、ショッピングセンターに行って、円をペソに両替して、それから銀行に行って、買って帰るオーガニック・コーヒーの代金を払い込む。Human Natureという自然派の製品を扱ったブランド。そこでレティ先生の孫が働いている。なので少し割引になる。

銀行からは、バン、と呼んでいる15人くらいの乗合タクシー(エアコンつき)で。ジプニーとトライシクルとバンを乗りこなせたら、相当に自由に移動できる。渋滞は避けがたいとしても。
イントラムロスの近くで降りて、トライシクルでサンチャゴ要塞へ。
何年ぶりだろう、サンチャゴ要塞とリサールミュージアム(以前はリサールシュレインと言っていた)は大好き。

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グレースが写真を撮ってくれながら、「スマイル、スマイル」と息子に言う。「きみはいい顔してるんだから、笑ったらもっといい感じになるから、笑いなさい」。

つまりね。きみは相当けわしい表情をしているわけよ。目つき悪いし。不機嫌に見えるから、まわりを心配させる。いまのところ、この子はシャイで恥ずかしがり屋だということにしてあるけど、いろいろと腹黒いやつだよとは、言わずにおくけど、笑顔は大事だよ。人生が変わる。ありがとうも、小さな声でよそ向いてじゃなくて、笑顔で言いなさいね。

と余計なことを言って、私は息子をむかつかせているのだった。

グレースの友人たち3人と合流。
リサール・ミュージアムは、撮影は可。フラッシュは禁止。帽子はとる。
ホセ・リサールは、36歳で処刑された独立の英雄。小説「ノリ・メ・タンヘレ(我に触れるな)」の作者。つつましいけれど、フィリピンの人たちの、リサールへの敬愛の気持ちがひしひと伝わってくるような展示だ。20数年前から数年おきに来ているんだけど、展示の仕方も少しずつ変わっているんだけど、いつ来てもそう感じる。大好きな場所のひとつだ。

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イントラムロスは、スペイン統治時代の面影のある一画だが、散策するには暑い。サンチャゴ要塞を出て、息子が探したのは、セブンイレブン
はるばる、マニラまで来て、探しているセブンイレブン
「だって自販機がないから。リサールミュージアムにひとつあったけど、壊れてるし」。
セブンイレブンあった。大聖堂の横に。
みんなでアイスクリームを食べて、飲み物とついでにハイチュウを買った。

それから国立博物館に行ったが、あいにく休館日。それなら、メトロポリタン美術館に行きたいと息子が言う。ガイドブックによると開いているはず。誰もメトロポリタン美術館を知らないので、人に聞いて、ジプニーに乗って、ついた先は、美術館ではないメトロポリタンで、美術館は、もっと違う方向だとわかる。
ここで美術館を目指す派と、ショッピングセンターに行きたい派が分かれる。美術館は行けても行けなくてもよかったのだが、グレースともうひとりの女の子が行ってくれるっていうので、あらためてメトロポリタン美術館を目指す。
通りを変えて、ジプニーに乗り込む。そのジプニーの運転手が、まだ若い男の子で、渋滞のなかを、パラパラパラパラと景気よく鳴らしながら、わりと小気味よく走り抜けてゆく。
日本でこんな運転あり得ない、こんな警笛の鳴らし方もあり得ない、と息子は大いに喜んでいた。
ジプニーを降りて、すこし歩いても道を間違えて、またトライシクルに乗って、ようやくたどりついたメトロポリタン美術館
閉館30分前。入場料100ペソ。

 

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なかに入ると一階は改装中で二階部分だけの展示だったが、これが面白かった。フィリピンの現代美術。キュービズムシュールレアリズムの手法の絵もあるが、西洋絵画とは全然印象が違う。混沌としたマニラの匂いがするのだった。すこし血の匂いがして、画面に体温があるような。画面が皮膚でその裏側に人間の肉があるような。
荷物は入り口で預けたし、カメラはだめだし、荷物を入り口で預けて、メモもとれない、パンフレットや本のようなものもないというので、なんにも記録がない。
帰国してインターネットで探して、ようやくいくつか、見てきた絵をみつけた。
私はこの絵が好きです。花嫁?

息子はこの、車の後ろに子どもがはりついている絵が気に入ったらしい。

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フィリピンの歴史を寓話的に描いた大きな絵も気に入ったらしい。拾ってきた写真は左右が切れているが、息子の記憶で再現すると、
左からは、馬に乗った青年(革命の英雄のリサールか)がやってくるが、それを阻むのは、スペインの堕落した聖職者たち、その後ろにはスペインのあとにフィリピンを占領するアメリカがふんぞり返っている、という絵らしい。右端の自由の女神の松明の火は消えていた。

メトロポリタン美術館とても面白かった。また来たい。

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美術館を出てマニラ湾を散歩。
宇和島の海とおんなじ匂いがする」と言う。たしかに。地元の人が釣りをしているあたり。
夕日の沈むちょっと前のマニラ湾。

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それからリサール公園に行く。快い夕涼みだった。噴水が、ライトアップされて、それが、大音量で流れる音楽にあわせて踊るのが、なんか、他愛ないけど、面白かった。
チョウキンでご飯食べて、つきあってくれたグレースの友人と別れて、またバンに乗って、帰る。

夜、レティ先生が、息子を呼んで、今日、どこへ行ってきたのか、聞いてくれる。
「恥ずかしがらない。きみはハンサムなんだし、本当だよ、自信をもって、ちゃんと相手を見て話しなさい」
息子、今日一日の足取りを話しはじめる。けっこうちゃんと英語話している。
「and then(それから?)のあとの沈黙がたまらなかったよ」と後で言っていたが。そうね、英語が出てこないときは、とりあえず私は、万歳して笑うかな。踊るとか、絵を書くとか、まあそんなで、なんとかなる。そんなで、なんとかできるまでには、きみは、もうすこしかかるかな。
一人っ子でスペシャルな子どもなので、よほど甘やかしていると思われたかもしれない。「料理を教えてあげないといけないよ」と私も言われたが、息子にも、「インディペンデント(独立)が大事、ひとりで、自分でやってみることがね」と促してくれたのだった。

いいね。これからきみのテーマは、インディペンデントだ。

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リテックスの市場の路地