スペシャル・チャイルド

23日。パアラランに送金。送金できた。
ほっとしています。緊急に助けてくださった友人のみなさま、ありがとうございます。
いつもいつもぎりぎりの自転車操業なのですが、こんななか30年近くも学校が続いているということが、なんかもう人間ってすごい、と思う。
でも、本当になんてスリリングな自転車操業
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パアラランに、息子にそっくりな男の子がいて、それはたぶん、息子を連れていかなければ気づかなかったかもしれない。机に向かっておとなしくすわっていられないとか、歌ったりお遊戯したりしない子はどこにでもいるので、何とも思わなかったかもしれない。アイヴァン(4歳)を、レティ先生はスペシャル・チャイルドと言った。特殊な子だと。そして、特殊な子は、ほんとにどこにでもいるのだ。
発達障害の概念は、ここまで及んでいないようだった。ノーマルかフール(知的遅れがあるかないか)、フールではなさそうなのにノーマルなふるまいをしないアイヴァンは、スペシャル。アイヴァンがスペシャルなのは、一人っ子で兄弟がいないからだろう、と話したりする。私の子どもが発達障害なら、アイヴァンもきっとそうである。それくらいそっくりだったのだが、発達障害という概念が、いまここで必要かどうか、については、考えてしまった。
なくてもいいのではないか。スペシャルな子どもには、スペシャルなケアがすこし必要で、それは、概念があるなしにかかわらず、それぞれの子どもたちに必要なスモールステップを、用意できればいいのだし、パアラランはそれができる。そして子どもはスモールステップをひとつずつのぼってゆけばよいだけなのだ。
で、余計なことは言わないことにした。

4歳の頃の息子が目の前にもどってきたみたいで、私はアイヴァンを見ていることがほんとに面白かった。そういえば、息子が幼稚園の頃、教室を脱走しても、歌を歌わなくても、私は全然心配しなかったな、と思った。
だって私たちの息子なので、歌ったり踊ったり体操したり、たくさんの子と長い時間一緒に過ごしたり、そんな難しいことができるとは、思わなかった。悩んでどうにかなることなら悩んでやってもいいが、どうにもならないことなので、いっさい悩まなかった。
それでも、スペシャルはスペシャルなりに、できることは増えていくので、それはもう楽しいばかりだったのだ。

まわりの子どもに「みんなとちがう」ことを責められ、ぶっ殺す、などと言われるようになってからが、彼の受難だった。障害はむしろ、「みんなとちがう」子どもを許容できず、ぶっ殺すなどと平気で口にできる側のほうにあるのだから、その子たちをどうにかしてほしいと、思ったけど。

アイヴァンそっくりだった私の息子は、3歳半のときに知能テストのようなものの数値が70で、知的な遅れがあるかないかの境目だと言われたが、6歳になったときには、100を超えていた。療育と幼稚園と小学校1年のときの先生にはほんとに感謝しているし、3~6歳の子どもの成長は奇跡を見ているようだった。
だからパアラランのような幼児教育の場はとても大切だと思うよ、という話を、私はレティ先生としたんだけれど、「え、ぼく、そうだったの?」と驚いたのは息子だった。
アイヴァンが自分とそっくりだということは、テレパシーでわかっても、自分の小さい頃のことは覚えていないらしい。たっぷりと話してやったら、他人事みたいに笑い転げてたけど。

ところで、あなたのスペシャルな子どもに、料理を教えたほうがいいよ、とレティ先生に言われたのだった。以前にはレティ先生の次女さんにも言われた。次女さんにはふたりの男の子がいるが、彼らは達者に料理する。あたりまえに家事をこなす。自立の最初はそこらへんから。

息子の、あまりの不器用さに包丁をもたせるのがこわくて、もうちょっと先だ、と思ったのが彼が小学生のときだが、そのあと受験で、そのまま忘れていた。帰ったら料理させよう、っと思って帰国したんだけど、夏休みの宿題あんまりたくさんで、時間なかったな。お米を研ぐのだけはしてもらった。

生まれてはじめて生きている鶏を見たと言われ、ぼくは小さい子との遊び方がわからないと言われ、息子以上に内向的で人間嫌いだった私の、小さかったころと比べてさえ、経験の幅のおそろしく狭いことに、改めて気づかされた旅でもあった。

夏休みが終わって、休み明けの試験も終わって、昨夜、うちのスペシャルな子どもが、パパを相手に、結局夜中2時ごろまで、話しつづけていたのは、マニラで見たあれこれの車のことだった。日本車がどんなにたくさん走っているか、どのメーカーのどんな車種が走っているか。ドライバーがどんな走り方をしているか。あとジプニーについても。
ぼくが見たジプニーはこんなふうにできていた。ハンドルがヒュンダイ、エンジンがフォード、フロントがジープまたは三菱。エンブレムがベンツで、ステッカーがISUZU
よくそんなに見てるな、と言ったら、そういうことは、向こうから目に飛び込んでくるそうだ。息子の撮った写真は、えんえんとえんえんと、車。