2019春の旅 2日め 美しい村

早朝に東京着。上野のコインロッカーに荷物を預けて、そのまま高崎へ。ついで横川へ。このあたり山のかたちが険しくてどきどきする。妙義山というのはこのあたりなのか。北関東の地理は私の頭のなかでは白紙。どこがどうつながっているのかいないのかよくわからないが、横川からバスで軽井沢へ。
軽井沢では1時間ほどしか時間がとれないが、犬の散歩をしていたおばさんに道を尋ねて、雲場池まで歩いて往復した。歩いたら、歩いた分だけは親しい土地になる。

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それから、しなの鉄道信濃追分へ。ここは私が行ってみたかった。
雪をかぶった浅間山がきれいだ。「ようこそ美しい村へ」

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左の道へ行けばよいと思うのに、歩道のない道、向こうの見えない坂道、しかもそのとき車がびゅんとスピード出して走っていたので息子がこの道はいやだと言い、それなら遠回りだけど、右の道から国道に出て追分宿を目指そうかと。
まあとにかく浅間山に向かって歩いてみた。
ほんと遠回りだったね。でも行き着いた。追分宿。鳥の巣箱のような図書館は息子が見つけた。

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時間がないので堀辰雄記念館はなかに入らず、公民館の壁に、立原道造の詩碑があるのを見る。

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そうよ、私の頭のなかでは、中学生のころに読んだ立原道造の詩がリフレインされていて、

  夢はいつもかへって行った 山の麓のさびしい村に
  水引草に風が立ち
  草ひばりのうたひやまない
  しづまりかへった午さがりの林道を
  
………

        立原道造「のちのおもひに」

軽井沢まで行くのなら、信濃追分まで行ってみたかったのだ。
夢のかえっていくところへ。

さて、ずいぶん歩いたので息子がどんどん不機嫌だ。駅までタクシーで帰ろうかと話すが、タクシーなんて見当たらない。電車の時間が迫るし、とにかく駅に向かって歩くしかない、ここで、国道が高架になっているのに気づく。横断歩道はあるが、信号がない。車は止まらない渡れない。歩道橋まで行くのは遠回りだし、どうしたものかと思ったが。
ふと見ると、柵の隙間から下の林道に降りていけそうである。ここを降りるよ、と息子に声をかけて、柵から藪のなかを潜り抜けて、下の道に降りると、背後から、息子の吠える声が聞こえた。
なんと彼は、いきなり藪のなかを歩かされて、怒り心頭だったのである。手に引っかき傷ができたとかなんとか言う。でも、とにかく道がみつかってよかったよ、と私は言ったが、すごく怒っている。パパが怒るときに似てきたよね、と言ったら、「パパがどうしてママを怒るのかよくわかったよ」とそのあとは口もきかずに、ひとりでどんどん歩いて行った。
藪のなかを歩かせたといったって、ほんの数メートルのことである。だいたい歩道のない道をいやだと言って、遠回りするはめになったのはそもそも自分のせいである。
とはいえ。
思えば、私は小さいころから近くの山をひとりで歩き回って遊んでいたが、息子は、山の近くに住んでいるが山を歩いていない、熊が出るのであぶないと言われたら、私だけの子ではないし、連れてゆけない。全然経験が違うのだった。
子どもに伝えられないことは、思いのほかにたくさんある。
でも、林道の散歩はこころよかった。そこらを飛んでいたしっぽの青い鳥は何でしょうか。

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電車の時間にも間に合うし、無駄なケンカをしてもしょうがないので、さっさと仲直りして、また軽井沢へ。バスに乗って横川へ戻る。このバスからの眺め、奇妙なかたちの山々が、すごみがあった。

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横川で、峠の釜めし食べる。ひとりだったら、こんな遠くまでこれなかったよ、と仲直り後の感謝を言い合う。
それから碓氷峠鉄道文化むらで遊ぶ。私は近くを散歩して、記念館で碓氷峠の関所破りの記録の展示見たり、酒屋のおじさんとおしゃべりしたりする。過疎の町に、遠くから鉄道マニアが来るらしい。たしかに、鉄道なんとかと名のつくところ、どこに行っても息子のような男の子たちがいた。
息子によると、鉄道文化むらの感想は「ふつうに天国」らしい。ふたりでトロッコも漕いで遊んだ。

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それから横浜へ向かう。横浜では友人一家と中華街でごはん。2年前に長崎の中華街へ行って、前日に神戸に行くなら、横浜にも行こう、ということで。

2年ぶりに見た女の子が13歳で、日ごろ家では男子しか見てないので、なんか、私はうっとりした。いい年ごろだよね。そのときはそうは思わないんだけど。いろいろ、きれいなものが、心に落ちてくるような。それが、いつもかえっていくところになるような。

上野に戻り、地下鉄に乗って宿まで。