遺跡めぐり

くる日もくる日も、耳に入ってくるのは新型コロナウィルスのニュースで、ほんの10日ほど前のことを書こうと思うのが、ずいぶん前のことのように思えるけれど、今朝、兄から電話があったのは、愛媛で集団感染があったという話だった。葬儀での集団感染らしく、まあね、田舎で人が集まるって、葬儀だわ。

で、父の納骨終えて帰省して、のつづきの3月20日。朝から、父が住んでいた家のまわりの草引き。息子は、眠い、と寝ていた。なんにもしなかった。私と兄はよく働いた。すみっこに、桜草が咲いていた。

昔、母が、庭先にこの花を並べていたことを思い出すわ。あちらこちらの庭先で咲いていて、この季節がほんとに好きだと思う。辻邦夫の「春の戴冠」という本のなかで、フィレンツェで、ボッティチェリメディチ家のロレンツォが、永遠の桜草の話をしていて、15歳の夏休み、どきどきしながらその場面を読んだことを、いまでも思い出す。
私には私の、永遠の春が、あると思う。

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途中で、兄と買い物にいったついでに、子どもの頃に住んでいたあたりに寄った。するともうそこは、全然ちがっていて、40年前にあったボロ屋などとうになく、新しい家が建っていたが、隣にあった寺は、当時は住職もいたんだけど、みごとな廃墟。毎日眺めていた、お寺の楠を私は見たかったんだけど、それが伐採されていたのが、ショックだった。
私の秘密基地があった、裏山は、登り口がコンクリートになっていた。コンクリートの上まで階段をのぼると、どの木の枝をもって、どこに足をかけて、この斜面をのぼったかというのが、ふいにありありと思い出されて、自分ながら驚いた。そのまま登っていきたい気がしたけれど、兄を待たせていたので、思いとどまった。

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きれいな新しい家々と、舗装しなおされた道と、滅んだ寺と見ていたら、私たちはもう、別の時代の人間なんだなと、思ったなあ。春の昼下がり、幽霊みたいにそこにいた。

午後、兄と別れて、私たちはお城山に登ったり、天赦園に行ったり。
お城の壁、昭和の補修で父たちが塗りなおした壁の一部は、1月の大風で剥がれ落ちたまま。昭和20年の空襲のときに、家を焼かれて、この山に逃げてきて、ふもとの火事を弟たちと見ていたという話を、以前、父がしていたなあとか、思い出した。
このお城山から見る町のながめが好きだった。ここにいたいけど、出ていくしかないよね、と高校を卒業する頃、友だちとここで話したのだ。そのあと、一度も再会してない。どこにいるかもわからない。歳月って、容赦ない。桜ちらほら。

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天赦園には、息子が小6のときにも来た。池の鯉にえさをやると、その食いつきっぷりがすごいので、キャーキャー飛び跳ねて喜んでいたが、高校1年のいまも、やっぱりやりたい鯉の餌やり。ここの鯉、おもしろい。勢いで胴上げされてる鯉もいる。鯉は変わらないが、でも人間の子のほうは、もう飛び跳ねて喜んだりしない、にやっと笑うだけ。
ここの鯉のアトラクションは最高だが、ほかには、とくに何もないのだが、ぼんやり日向ぼっこして過ごす。遠くに、鬼が城連山。

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それから、海を見に行った。いつも、釣りをしていたところに行くと、いろんなゴミとか積んであった空地が、何にもなくなっているのは、大風がさらっていったんだろうな。天気がよくて、海が青くて、風が吹いて、気持ちがよかった。

ここで去年の夏に、父や叔父と一緒に釣りをしたのが、最後。

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あんなに釣りの好きだった叔父も、もう全然釣りをしないらしい。夜、会ったら、手に湿布を貼っていて、しきりにさするので、聞いたら、リューマチだって。
夜、兄とふたりの叔父と私たちと、焼き肉。店の支払いは、ここで働いた兄のバイト料からだなあ。ありがたく、食べた食べた。

そのあと、友だちに会った。マスクがないの話から、地元の人口減少の話から、これから大変よ、私たち、生老病死の、老病死がおしよせてくるよ、みたいな話。
友だち、翌朝、わざわざホテルまで、畑で採ったばかりのキャベツ、レタス、玉ねぎを届けてくれた。ありがたく。

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これは父が遺した遺跡だな。公園の大きなすべりだい。3歳か4歳くらいの私が、このあたりから、働いている父を見ていたはずなのだが、覚えていない。