帰省 ①橋を渡る

8月12日。宇和島に帰省。毎年この時期、たぶん同じ日。

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去年は船と列車だったけど、今年はしまなみ海道を車で。しまなみ海道から宇和島までの高速道路では、山肌に白い百合が咲いていた。谷間の百合の花ざかりの頃。

夕方、宇和島に着いて、父を誘って近くの温泉に行く。父は2か月前に車とぶつかって足を腫らしていたらしいのだが、もう歩けるようにはなっていた。

宇和島湾に浮かぶ九島という小さい島と、市街地とを結ぶ、新しい橋が架かっていた。去年の11月にできたらしい。さっそく渡ってみる。渡ってみると、たったこれだけの橋である。たったこれだけの橋をなぜ今まで架けられなかったんだろう。
(今まで町と島を行き来したフェリーは、フィリピンで使われることになっているらしい。)

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島に渡ったところで、みかん山のモノレールに息子が気づく。初めて見るって言う。これは何。これは「らくらくらっく、ものらっく♫」っていうやつ。(昔そういうコマーシャルが流れていた)山からみかんを運ぶためのモノレール。教えていませんでしたか。うかつなことだった。

この日、いたるところで、地元の新聞の号外を見かけた。

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「伊方3号再稼動 プルサーマルで唯一」。
反対の座り込みの記事と、景気回復を期待する声と。
何年か前、山から伊方原発を見下ろして、そのままずっと岬の突端まで行ったことを思い出した。あのときは、父も、灯台までの山道を一緒に歩いたのだったが。もうそんなに歩けないなと思うと、せつない。あのあたりは岩も砂も青くて、それで海がもっと青くなって、きれいだった。
「馬鹿どもが、もう」と新聞を見て、父が言う。批判、というよりは、口癖。

地域に電力会社があったりすると、地元町内会は、原発へのバス旅行に招待されたりする。広島からだと島根原発。バス代食事代無料。それで漠然と原発いやだなと思っているような人たちが、漠然と、原発必要かもしれないなと、思って帰ってくるのを、私も見聞してきたが。
代替エネルギーの研究開発はしているんでしょうか」と町内会の人が、電力会社の人に聞いたら、「していません。そういうことは、一電力会社では無理です」と会社の人は言ったらしい。
こういうことは、いたるところ、苦い亀裂が走る、と思う。苦い亀裂がいやだ。

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夜、兄と叔父さんたちふたりと合流して、焼肉屋さん。ふたりの叔父がよく飲む。私は上の叔父とは、子どもの頃から一緒に飲んでいたが、いまは、息子に飲ませんとってよ、という役回り。
「どんな曲かわからんでも、声を出したら歌は歌える」と言う下の叔父はすごいだみ声なのだが、叔父さんふたり、私の息子を連れてカラオケに行くという。パパは疲れたからホテルに帰るというし、父は兄にまかせて、しょうがないので、私と息子とつきあう。
カラオケスナック。中学生が行っていいのかどうか知らないが。カラオケもスナックもはじめて。叔父さんたち勝手に歌う。上の叔父は音程はあっているが速さがあわない。下の叔父は速さはあうが、あとは何にもあわない。ほとんど別の曲である。
逃げた女房にゃ未練はないが~♫ って、女房に未練はなくても、下の叔父さん、娘がいて孫ができて、孫の成人式の振袖のレンタル料を送ってやらねばならないらしいのだった。
どれもこれも、息子には歌詞の意味はちんぷんかんぷんみたいだが。
息子、絶対に歌わないが、機械は触ってみたいのであった。あれこれ歌の予約を入れて、なんだかわからない歌を、なんだかわからないままに叔父さんたちが歌うという、わけのわからないことになっていた。叔父さんたち楽しそうだったからいいや。

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「声が出たら、歌は歌える。わしらみたいな馬鹿でも、なんとか生きてはいける。よう覚えときや」と、叔父さんたちは、私の息子に語ってくれるのだった。