パアララン・パンタオ レポート ① ホスピタル

7月31日。夕方マニラ着。

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迎えに来てくれたジュリアンが「ママ・レティの新しい部屋に行くよ」って言う。「ホスピタル(病院)」。
レティ先生骨折で入院中。

ジュリアンはパアラランの最初の奨学生。いま、レティ先生の末息子のジェイコーベンの会社で働いている。娘のサヴィエンヌは2歳になった。
マニラの渋滞はおそろしい。1時間たっても空港のあたりから車が動いてない。何車線の道なのかわからないし、車もバイクも物売りもたまに自転車もごちゃごちゃに道の上にいて、ああ、マニラだと思って、眠っているうちに車は病院に着いたけど、3時間ぐらいかかったんじゃないかな。



セントルクス病院、408号室。ジェイコーベンと、孫のロレインが迎えてくれる。ロレインはカレッジの2年生。ジェイコーベンの会社で働きながら通っている。
レティ先生、点滴につながれている。
ジェイがノートに経緯と病状をメモしてくれる。骨の写真も見せてくれる。レティ先生、21日に転んで左腕を骨折。それだけではなくて、腰と膝の骨粗しょう症もある。このままでは歩けなくなるので、継続した治療とセラピーが必要。

唇が震えたり、吐いたりもしている。低ナトリウム症ということで点滴治療中。
すこしして、レティ先生の長男のジョジョと、養女のグレースも来る。
家族親族友人みんなが支え合って、レティ先生の介護とパアラランの仕事にあたっている様子だ。
パアラランの経理の仕事は、ぼくがやるから、とジェイコーベンは言った。

夜遅く、パヤタスにたどりつくと、パヤタス校では、レティ先生をサポートしている次女のジン先生が乳癌で抗がん剤治療中。息子ふたり(アチバルとライジェル)と、犬2匹と一緒にパヤタス校で生活している。
レティ先生の次男のボーンも、教室で寝泊まりしている。
レティ先生とジン先生。パアラランでいちばん声の大きいふたりの先生が、ふたりとも病気で、静かでさびしい。マニラの最初の日。



早朝4時。学校の裏の道をゴミのトラックが通っていく音で、目覚める。がんばってもうすこし寝る。Cimg1355

裏の道は崖下を通っていて(学校は崖の上にある)ゴミのトラックをフェンス越しに見おろせる。にぎやかな声が近づいてくるとき、トラックには子どもたちがいる。ゴミ山への14歳未満の子どもの立ち入りは禁止されているので、子どもたち、ゴミのトラックにのぼって、トラックの上でゴミを漁る。 
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道の向こうはそそりたつ山だが、20年前は平たかった。その前は谷だった。ゴミが堆積してできた山は、草におおわれて、知らなければふつうの山だと思うだろう。




運転や大工仕事をしてくれるラリーさんの運転で、ベイビー先生(レティ先生の長女)とアチバル(ジン先生の長男)と一緒に病院に行く。入れ替わりで、ジョジョとグレースとロレインが帰る。

病室で、お昼ごはん。私たちの分は外の店からジェイコーベンが買ってきてくれる。近くにはセブンイレブンもあってコーヒーもある。一緒にコーヒーを買いに行きながら、ジェイコーベンが「今日はママ・レティが食べてくれて、とてもうれしい」と言った。昨日まで食べられなかったり吐いたりしていたのだ。

病室で、ジェイコーベンがまとめている途中のパアラランの1年分の経理のレポートを、眺めながら、あれこれの確認と相談。エラプ校の屋根の修理は完了している。あと電気とパヤタス校の天井修理があるが、急がないので、もうすこし余裕ができたらやりたい。学校の運営がなかなか苦しい。
先生の給料は安すぎる。公立小学校の先生の半分から4分の1程度。教師の確保は問題だ。

カレッジを卒業、中退した若い先生たちに安い給料で働いてもらっているのだが、彼らに教職のコースを受けさせて、教師としてやっていけるようにしてあげたい、と思っている。そして、教職を目指す若者に奨学金を出して、卒業後、就職までの間(たぶん1年ぐらい)パアラランで経験を積むこともかねて、働いてもらうことを考えている。今年、新しく2人の少年に奨学金を出している。ふたりとも教職のコース。
(教師の給料をあげるほどの資金はないのだが、公立のカレッジの奨学金なら、なんとか出せそうなのである)

フィリピン国内でNGO登録をしようとしていて、ジェイコーベンはたくさんの書類と格闘している。これからパアララン・パンタオをつづけていくために。フィリピンと日本、それからほかの国とも、若い世代のネットワークをつくりたい、と思っている。とても心強い。

はじめてパアラランを訪れてから21年が過ぎている。私はあの頃のレティ先生の年齢になったし、その分、レティ先生も年をとった。私と同世代のレティ先生の娘たちも、ジン先生は乳癌だし、ベイビー先生も足と腰に持病を抱えて、痛くて眠れなかったとかいうし、なんていうか、歳月という鳥についばまれている虫のような気持ちに、ふとなるけれど、若い世代の存在が心強いし、心をあかるくしてくれる。

この日から、レティ先生の足のセラピーがはじまる。腰にコルセットをつけて、杖をついて、部屋のなかをすこし歩く。ジェイコーベンの妻の家族やベイビー先生の次女のチャイリン、チャイリンの娘のグローリィも来る。

カズミを散髪に連れていかなければ、とレティ先生が言うのがおかしい。私の髪のことはいいから。
チャイリンが連れてってくれるって言う。

帰ると、パヤタス校の教室は、一週間分の家族の洗濯物が干されている。グレースとライジェルが一日がかりで洗濯した。