共同通信配信 核心評論「朝鮮学校無償化見送り」

2010年11月27日

核心評論「朝鮮学校無償化見送り」
◎経緯無視した方針転換だ/砲撃受けて外交配慮

 北朝鮮による韓国・延坪島ヨンピョンド)砲撃を受けて、日本政府は朝鮮学校への高校無償化適用を当面、見送る考えを明らかにした。北朝鮮への有効な制裁措置がほかに見当たらないのだろうが、直接的な関係のない朝鮮学校の生徒たちの期待を裏切るというのは、筋が通らない。
 高校無償化は、民主党が政権を奪取した昨年の衆院選マニフェストに掲げた。経済的な理由で教育を受けられない子どもが出ないよう、公立高校の授業料は徴収せず、私立高校や専修学校各種学校の生徒には、保護者の収入に応じて年約12万~24万円の就学支援金を支給するという制度だ。
 文部科学省は当初、各種学校の認可を受けている朝鮮学校も無償化の対象とするつもりだった。ほとんどの大学が朝鮮学校卒業生に入学資格を認めている実態からすれば当然だろう。ところが、北朝鮮による日本人拉致問題が進展しない中、中井洽・元拉致問題担当相らが反対したため、専門家会議を設け検討した。
 同会議は無償化を適用すべき外国人学校の基準として、体育や芸術を含め高度な普通教育にふさわしい科目があることなどを提示。専修学校と同様に「具体的な教育内容は基準としない」と明記した。結局、民主党政調会も了承し、文科省は11月末を期限に朝鮮学校の申請を受け付けていた。
 政府、民主党はこれだけ丁寧な手続きを経て、朝鮮学校無償化にかじを切った。しかも、教育の自由を重視して、政治的、外交的な思惑が影響しないよう、教育内容は基準から除外したのだ。
 しかし、砲撃の後、菅直人首相は「問題の重大性を考え、いったん停止するのが望ましい」と手続き停止を指示した。これまでの経緯を無視した方針転換だ。高木義明文科相は「外交上の配慮で判断すべきではないという考え方は変わっていない」と述べたが、外交配慮以外の何物でもない。
 外国人学校でも、大使館を通じて日本の高校に相当すると確認できたドイツや韓国系の学校、国際的な学校評価団体の認証を受けたインターナショナルスクールなどは無償化の対象になっている。残るのは、朝鮮学校と、各種学校にも認可されていない小規模なブラジル系学校ぐらいだ。いずれも経済的に苦しく、就学支援金を必要とする子どもたちが多い。
 それらを放置したままで、無償化が目指す「教育の機会均等」が実現したとはいえない。国連人種差別撤廃委員会も既に、教育機会の提供に差別がない状態にするよう日本政府に勧告している。
 朝鮮学校をめぐっては、東京都や神奈川県、大阪府も「反日教育をしている」などとして、独自に支給してきた補助金を見直す意向を示している。政府や自治体のこうした動きは、根強く残る民族差別を助長することになりかねない。教育と政治、外交は切り離し、既定路線通り、朝鮮学校の無償化手続きを粛々と進めるべきだ。

                                  (共同通信編集委員 原真)