パアララン・パンタオ レポート ③ エラプ校と奨学生たち

3日。エラプ校に行く。

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今年のエラプ校。午前中は5歳児、午後は5歳から8歳の各4クラスがあって、全部で146人の子どもたちが登録。
先生は5人。ベイビー先生、マリリン先生、リザ先生、アン先生と新しいクリステル先生。

新しいクリステル先生の評判がよい。
彼女は教師の免許をもっている。だからたぶん来年は就職して公立の学校の先生になるから、1年しかいてくれないのだが。



ベイビー先生の次女のチャイリンが来て、一緒にモンタルバンの町に行こうと言う。トライシクルに乗っていく。

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ゴミ山の崩落事故のあと、パヤタスの人たちが移住させられたエラプの町は、原っぱに建物が並んだだけ、なんにもないところだったが、この15年で、人が暮らす町らしくなり、そこから遠くないモンタルバンの街も発展した。
頼まれた学校関連の買い物をして、チャイリンは私を美容院に連れていく。左手首に羽の模様のタトゥがある若い女の子が、髪を切ってくれた。以前福岡で暮らしたことがあるらしく、日本語がすこしできる。日本のチョコレートとカップヌードルはおいしいよねという話をした。50ペソ。150円弱。



エラプ校に戻って、キッチンでベイビー先生たちとお昼ご飯。新しい奨学生のレオも一緒。カレッジの1年生。教職のコース。自分のクラスのない日は、パアラランに来て、アシスタントをしている。ベイビー先生が言うには、彼の母親は野菜の行商をしていて、早朝から働きに行く。だから彼は朝ごはんを食べずに育っている。それでベイビー先生は家族の食事を少し多く用意して、彼に食べさせている。この日もレオは、これが最初の食事。体の小さな少年だ。

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午後のクラス。最初はみんなで、音楽にあわせて体操をする。それからそれぞれのクラスにわかれる。1クラス10数人〜20数人。フィリピンの小学校は1クラス60人もそれ以上もいることを考えると、ここの子どもたちの教育環境はほぼ理想的。小学校にすすんだときドロップアウトしないですむように、自信をもって通いつづけることができるように、しっかり基礎学力をつけてあげたい。

子どもたち、手のかたちをなぞって、色を塗る。実にいろんな形の手。

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それからアルファベットの書き取りは、Uの字。
実にいろんなUがあって、泣きそうな顔の女の子は、上下逆の山型のUを書いていて、これから書き直し。
レオが、ひとりひとりの手をもって、書き取りを手伝ってあげている。私も、左から右でなく、右から左へ書いている男の子の書き取りを直したが、すると、「ほら、あの子もできてないよ」と向かいの席の子を指さす。そうだね、でもあの子じゃなくて、まず君だよ。
不満そうに書いていたが、それでも書き終えて、先生から「ベリーグッド」のスタンプを貰うと、得意そうに笑った。
このベリーグッドスタンプ。子どもたちはノートやプリントではなく、手や顔に押してもらうのが好き。

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子どもたちといると楽しくなる。ひとつひとつ他愛もなく、めんどくさいことなのだが、そのめんどくささに溺れれば溺れるほど、楽しい。
アン先生が子どもたちのプリントを見せてくれる。見てごらん、この子たちの書いたoの字を。なんてたくさんのふしぎな雪だるま。なんてたくさんのふしぎな石ころ。きっとこの楽しさが、薄給にも関わらず、先生たちがここで働いてくれる理由だ。何人かの先生は、ここでの給料が少ないから、ほかの仕事とかけもちである。

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滞在中、おおむねいい天気だったが、雨季なので、毎日、午後の数時間は、激しいスコールがあった。
ふと、風が強くなったなと思ったら、たちまちどしゃぶり。たちまち前の道が川。去年の台風で激しく壊れた屋根と天井は、クラウドファンディングで集まった資金で、既に修理済。ああ、よかったね、きれいになったねって話したばかりだったのだが、なんと、チャイリンが雨漏りを見つける。天井と壁の隙間から水が落ちてくる。修理後、こんなに激しいスコールははじめてらしいのだったが。写真をとって、ジェイに連絡。

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翌日、ジェイがラリーさんと一緒に点検、ラリーさんがすっかり修理した。

☆☆

教師の給料は安すぎる。こんな給料でずっと働いてくれというのは、無理である。
でもパアラランには、いまこれ以上先生の給料をあげる余裕がない。

先生たちひとりひとり、様々な暮らしの困難を抱えている。

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パヤタス校のマリアペレは、4人子どもがいる。そのうえに一緒に暮らす母親や弟妹たちの生活もある。マリアペレにも、カレッジで学び直すことをすすめたが、それよりももっとお金が必要で、いまシンガポールかドバイに出稼ぎに行くことを考えている。パスポートも申請した。
グローリア先生は、息子が大学生になったので、お金がいる。

ジン先生は言ったそうである。
「みんな難しい問題を抱えている。私はこんな病気になった。でも文句は言わないよ。あなたの悩みはお金だけだ。あなたの問題と私のこの病気を交換するか?」
それから、先生たちは給料の不満を言わなくなったそうだ。・・・ジン先生、強い。
でも、先生たちの不満は、ほんとうにもっともだ。
そのほかにも、先生たちのプライベートな問題について、ジン先生がたくさん教えてくれたが、たくさんすぎで、どれがどの先生の話か、私の英語の理解力では把握しきらないのだが。家族の問題、お金の問題、とにかくたくさん。



お金がないので考える。
給料が安いかわりに、若い先生たちに、カレッジで教職のコースを学ばせて、教員免許をとらせたいと考えている。そうすれば、公立の学校で働けるようになる。パアラランで経験を積んでいるから、きっといい先生になる。

エラプ校周辺の子どもたちが通いやすい距離に、公立のカレッジがある。授業料が安い。去年、1人の少年、ロウェルくんに奨学金を出してITコースに復学させたが、今年はさらに2人の少年に奨学金を出すことにした。レオとマイク。ふたりとも教職のコース。クラスのない日は、パアラランに来てアシスタント・ティーチャーをしている。卒業後も、就職するまでの間、たぶん1年ぐらい、パアラランで働いてもらうことにする。そうすれば、若い人たちの進路を応援しながら、少ないお金でも学校を続けていけるだろう。

キッザニアの引率でも、ボランティアの母親たちに混ざって、この少年たちがいた。ロウェルとは去年の10月に会って以来なのだが、表情から、以前の不安なおびえた感じが消えて、自信と誇りがうかがえたのが、すごくうれしかった。ロウェルはITのコースなので、ジェイは、友人の会社で職業訓練させてあげたいと考えている。

そんなふうに学校をつづけていくつもりだ、これからのために、フィリピンや日本、他の国の若い人たちとのネットワークをつくっていきたい、とジェイ。