マリアナ海溝に行けなくても

試験が終わって、帰ってきた息子、試験のことではなくて別のことでショックを受けていた。英語の自習ノートが返されてきたが、実際にやったページの半分以下にしかカウントされていない。
まず、まちがったところをなおしていないという理由で再提出、と書かれていて、でもぼくはすでに直している、ほらこのページ、と書いて次の提出日に出したのだが、再提出は、その日のうちに出さなかったらカウントしないということで、5ページが0ページになった。
それから、試験期間は試験範囲の勉強をしろというので、息子はノートに住んでいる登場人物たち(ハンプティとダンプティとミスタ-A)を黙らして、せっせと教科書を写していたのに、9ページが4.5ページにしかカウントされていない。
カウントされた数字の分だけ、富士山やマリアナ海溝を目指すすごろくをすすめることができるんだけれども、こんないじわるして、このクラスは遅れてる、男子はとくに、と叱られるのも理不尽だと、言う。(だってもうひとりの先生のノートの評価はゆるくて、その先生のクラスだったら、倍以上のはやさでカウントできるのに)

「こんなことされたら、英語きらいになるよ」と息子は涙目。
もしかしたら、先生的にはノートの提出のルールがあって、それが息子にはうまく理解できなくて、こういうことになってるかもしれないけど、とはいえ、そういうことを先生に話にいくのもいやなほど、彼はその女の先生を苦手ですね。

全力で励ましたけど。たぶんこんなにその先生とそりがあわないのでは、ノートの書き方をどんなふうに変えてみたところで、ページは稼げないと思うよ。いちばんいいのは頑張らないことだよ。マリアナ海溝に行くのはあきらめよう。
でも楽しく過ごそう。だってさ、ノートはその先生のためにあるんじゃなくて、きみと、ハンプティたちのためにあるんだよ。ハンプティたちは、何があっても、そのノートのなかで楽しく過ごしていいんだからね。試験終わったから、ハンプティたち、もうお喋りしていいよ。

すると、ノートではさっそく、ハンプティたちのお喋りがはじまった。
「ハンプティ:ぼくはとてもショックだ。
ダンプティ:ぼくも。
ミスターA:そうそう。
ミスターX(ゲスト):なぜ?
………だってノートがとても少なくしかカウントされてない。ぼくたち何が悪いの? 先生の考えていることはわかんないよ(という話をハンプティたちがする)………
ミスターX:気にするなよ。マリアナ海溝に行けなくても、きみらは自由で幸福なんだよ、この世界で。
ハンプティとダンプティとミスターA:イエーイ」

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という作文をして、息子、「あーすっきりした」って言う。
思うに、中学1年で、英語の作文でこれだけ言いたいことが言えたら、たいしたもんではなかろうか。
辞書ひくのがすごく早いのは、時刻表をめくり慣れているからだと思うわ。
しかし、雑な字。こういうノートを読まされる先生も大変と思う。

息子のコミュニケーション障害の可能性、聴覚の過敏(騒がしいのが苦痛、というほかに、音が混ざったとき、そのなかから必要な声を選んで聞きとるということができない。耳もとで何か別の音がすると、先生の話は聞き取れなくなるが、聞き取れないことに気づけない)のせいかもしれないということも考える。
強制的に発言させるタイプの授業も苦痛らしい。
小学校なら、担任の先生ひとりに言えばすむことだったが、中学は9教科あるからな。いちいち配慮のお願いに行けないし。本人も望まないし。

でもいまのうちに、いろんな大人に出会っておくというのは、それ自体貴重なことなので、いい経験をしていると思うべきだよ。どうしてもしんどくなったら、エスケープして保健室に行けばいいから。

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と息子には言った。

夜、彼はりんごを剥いてくれた。最初から最後までひとりで剥いた。できたねえ。