「風の中を」

  風の中を    許南麒

──一九四七年四月、川口朝鮮初級学校の入学式の日に
                元 朝鮮初級学校長の詩

大きなカバンを肩にかけ
少年たちよ、
君たちは
あの風の中を歩いて来る、
──先生、お早ようと
帽子をふりながらやって来る、

君たちは
あの風に 負けなかった
風が君たちを
吹きたおそうとしても、
君たちは
この道が行きつくところに
われわれの学校があり、
遠い祖国からの
朝鮮の子供たちのうたう歌声が
オルガンの中から泉のように
こんこんと湧いていることを
知っているのだ、

そして その歌の
一節一節が、
君たちの耳に
オレタチハ ゲンキナ朝鮮ノ子供ダ、
オレタチハ ドンナ嵐ニモ
負ケナイ朝鮮ノ子ダと
ささやいてくれるのを
知っているのだ、

君たち、
異国で生れ、
異国で育ち、
母国語はひとことも知らない君たち、

だが きょうからは
君たちの道は
この学校を通して
遠い祖国の子供たちの中につながる、

元気よく
風をおしきって
歩いて来るがいい、
君たちの
そのあたらしいカバンの中を
一ぱいにふくらましているそれが
何があるかを
この先生は
知っている。