そういう耳

雨。
梅雨入りらしい。
参観日だったので行ってくる。
息子が、はしっこの席だったので、その近くで見てたのだが、
まじめにやってたが、 にもかかわらず、
先生の指示が耳に入っていない、のに気づいた。

国語。テキストは、意見と理由、が書いてある文章。
意見に赤線を、理由に青線を、引きましょう。

授業は主に、青線を引いた理由について、話しあうものだったのだが、
意見には赤線を引きましょう、 と先生は二度は言った。

息子、青線は引いたが、赤線は引いてない。耳に入っていないのである。

── 人の話を聞いてないときあるよね。

私もよく言われたが、いつも心外だった。だって聞いてるもん、わりと一生懸命聞いてるもん、と思うんだけど、そうらしいのだ。
たとえば、窓の外を車が通ると、目の前で話している人の声が消える。換気扇がまわったり、冷蔵庫がうなったり、雨音が激しくなったりしても消える。ほかの人の声が混ざったり、手もとの紙ががさがさしても消える。
頭のなかをうさぎがよぎっても消える。
それはいま関係ないことらしいと思ったときにはもう消えていたりする。

まあそんなふうに、先生の声は消えてしまったのだろう。

だって青線のことを考えているときに、赤線のことを言い出すとは思わないよね。

帰って、息子に説明する。
そこで先生が赤線を引かせた理由はさ、ここにふたつの文章があって、ひとつは最初に意見を言って、それから理由を言っている。もうひとつは、最初に理由を言って、最後に意見をまとめている。その違いに気づいてほしいからだよ。
次の時間、きっとそのことをやるよ。

しょうがない。

大学のとき、どこで聞き逃したか、試験のお知らせを「聞いてなくて」単位落としたことありますけれども、私。あれこれ落としっぱなしなので、もうほとんどどうでもよかったですけど、翌年も同じ講義を受講しなければならないのはしんどいことでした。

聞き逃してしまった以上は、「何を」聞き逃したかはわかんないのである。
聞き逃してしあわせってこともあるかもしれないし。

そういう耳、なのだ。

そういう耳。

後ろの壁に貼られていたのは習字でしたが、「旅」という字、すごく線のきれいな字があって、女の子のでしたけど、見とれた。
ふうん、この子が書いたのか、と思って見てたけど、
帰って息子に、Yさん習字上手だね、って言ったら、 彼がいま、好きな人らしいです。

なるほど、好きなタイプはわかってきた。