空き地の畑

昔ここを造成した業者も、どうしてこんな売れない宅地造成をしたのか、いまとなってはわからないそうだが、そのような場所が何区画かある。
ほったらかしで草ぼうぼうで、業者も、管理放棄しているに近い状態だった。心ない人間のゴミ捨て場になっていた。詐欺で逮捕されたらしい土建屋が、不要になった資材を捨てていたりした。
上、中、下、と三段になってるそのような草地が近くにあり、畑するんならそこの土地使えばいい、と町内会の許可もらって、私が中の段の開墾をはじめたのが、3年半前。

それを見て、私も畑をしたいと、近所のTさん(たぶん60歳くらい、女子)が言ってきたのが、それから半年後かな、1年後かな。上の段の開墾をはじめた。
びっしり茂ったカヤの根を掘り出して、ごろごろ出てくる石を拾うのはそうとうたいへんだったはずだが、私の畑がいつまでも雑草だらけで全然畑に見えないのにくらべて、Tさんのほうは、まるで農家の畑のようになった。一本の雑草もゆるしてもらえないんじゃないかと思うほどの徹底ぶりで。

さて、その空き地の畑は、隣の団地との境目にあって、隣の団地のHさんちが、畑を見下ろす位置にある。そのHさんの幼稚園児の子に、去年のいまごろ、畑のいちごをあげたのが、ことのはじまりだったのかな。
そのとき、Tさんが悩んでいたのは、家から水を運ぶのが大変だということだった。どこかからいらない風呂おけもらってきて設置して、そこに水をためよう、と考えた。水代払うから、どこか近所の水を使わせてもらえないか、と考えた。

それでHさんにその話をして、彼女が、いいですよ、と言って、そのとき、畑をしてみたいと言ったHさんに、Tさんは、自分が開墾した畑の3割ほどをゆずったのである。

去年の夏から、Hさんも熱心に畑をつくりはじめた。いいかげんだったのは私で、夏の間はあさがお畑になってたね。Hさん、冬は仕事から帰るともう真っ暗で、畑どころでない、ということでほったらかしだったが、春になってまた、やりはじめた。

ところが、最近Tさんに言われたそうである。
「ここは、うちの団地の土地だから、隣の団地の人が使うのはいけないって、言われたのよ。だから、今植えている分の収穫が終わったら、出ていって。私ももう、その風呂おけの水、使ってないし。」

Hさん、えらくショックを受けていた。「それは自分に権利のあることではないから、出ていけと言われたら出ていくしかないけど、ものには言い方があるでしょう。」

不可解だ。町内会は、草ぼうぼうよりは畑のほうがましなので、よろこんでいるし、隣の団地の人が使ってはいけない、などという話はない。
だいたい、冬は仕事が忙しいから、冬はできないし、とためらっていたHさんを、水道の水ほしさに、畑仲間に引き入れたのはTさん自身なのである。

では、Tさんの言動の理由は何か。

推論1。Tさんが、近所のだれかに、畑のことで何かいやなことを言われた。それで、Hさんにあたった。

推論2。Tさんの畑にはいま玉ねぎがたくさん植わっていて、夏野菜を植えるスペースがない。それで、ゆずった畑を取り返したくなった。

いずれにしても、Tさんの、Hさんに対する態度は理不尽なものだ。

隣の団地の人は、という理由は、理由にならない。それは町内会にも確認しました。だいたい、ここはTさんの土地ではないし、権利がないといえば、3人ともおんなじだけ権利がない。
はっきり言って、3人とも他人の土地を勝手に使っている盗人なので、いていいとかいけないとか、だれもそれをいえる権利はない。
だれに畑を荒らされようが、盗まれようが、文句を言えるすじあいでもない。

でも、Tさんが畑に道具小屋やパラソルを置いたり、果樹を植えたりしている様子は、すっかり、自分のお庭、という感じで、その思いつめ方は、人を受け入れる余裕があるふうではない。もしかしたらHさんの存在は、Tさんの世界を乱すだろう。

推論3。TさんがHさんを苦手。そのことに、畑をゆずったあとになって気づいた。でもあなたがきらいとは言えないので、別の理由をこじつけた。

こんな小さな空き地の畑をめぐっても、トラブルは起きるのだ。
国家間の領土問題なんか、あって当然、だと思った。