星ヶ丘ゆき

kazumiの日常雑記

檸檬

「ぼくは自閉症なんだよね」と、ふいに息子が言うのでどきっとする。
隠していないし、診断も告げてあるが、私には、あたりまえの子どもに見えるので、なぜこのあたりまえの子どもに、自閉症スペクトラムとか、アスペルガー症候群とか(この診断名はそろそろ使われなくなるらしい)、広汎性発達障害というような診断名が必要なのか、よくわからないのだ。
よくわからないのだが、集団のなかに放り込まれるときに、この診断は、必要だったり役に立ったりすることがある。そうして無駄な苦しみを避けることができる。そうでなければ、たぶん必要のない診断である。

子どもが自閉症と診断されて、救われたのは、親の私たちだった。ドクターの説明はことごとく、自分たちにこそあてはまったのだ。あれこれの生き難さの謎が解けていった。つかみどころのなかった苦しみの正体が、手のひらに、自分がつかめるものとして、ぽんとのせられた感じ。なんだ、こんなものだったのか。つかめば、捨てることができる。それは、もう捨ててしまっていい苦しみだった。

それで息子が、「ぼくは自閉症だから、勉強できるのかな」と言うので、吹き出してしまった。ああ、それは大きな勘違いですね。二重に勘違いしている。まず、勉強できるできないと、自閉症であるかないかは、別の話。それからきみは、勉強ができるわけじゃない。記憶力はいいから、今のところ、勉強で困ってないけどね。
たぶん、自閉症で得をしていることもあるし、損をしていることもあるよ。個性ってことでいいんじゃないかな。診断名を受け入れる以上は、肯定的に受け入れたい。きみが自閉症なら、自閉症ってすてきなんだよ。

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さて息子、部屋の入口に「丸善」という貼り紙をしている。なにかと思ったら、机の上に、本をめちゃくちゃに積みあげて、その上にミニカーをのせている。
「ママ、これは何でしょう」
ああ。これは檸檬だ。梶井基次郎檸檬だ。
「そのとおり。写真撮って、ブログに載せてね。タイトルは檸檬って漢字で書くんだよ」
なめこ文学全集というあやしげな本に、檸檬があるんだよね。基次郎の小説を読んだわけではもちろんない。
空想の爆弾を手に入れて、どきどきしているのである。檸檬の爆弾のかわりに、ミニカーをのせているんだが、車に爆弾積むなんて、そのまま戦場の話で、ぜんぜん素敵じゃないけどな。
うちの冷蔵庫にレモンはないし、しょうがないのか。柚子はあるけど、それだとお正月の鏡餅みたいだし。

息子が4歳のころ、爆弾を積んだ船、なんかをつくっていて、どうしてこんな小さい子が、戦争とか爆弾とか、そんな言葉を口にしないといけないのか、どうやって、そういう人類の悲劇からこの子を守ればいいのか、せつなかったが、いま10歳になって、ノートに戦車や戦艦の絵をかきまくっているのを見てたら、しかたないな、と思う、きみは自ら望んで、人類の悲劇に足つっこみにきたんだよ。もう、自分の覚悟で生き抜いていきなさい。

夜、パパが片付けていたが。
それ、さわると爆発するよ。