告白

運動会のとき、
自分の子どもを探しながら、小さくて、ぼーっとした子どもが、全部自分の子に見えて困る、ってパパは言っていたが。

その、ぼーっとした息子だが。

「ママ、ひとつだけ言っておきたいことがあるんです」
と、一日2回か3回くらいは、言う。
はい、なんでしょうか、
と、改まって聞くと、その内容が、
「1906年のサンフランシスコの地震のことなんですけど」
というようなことだったりするので、思わず気持ちが地滑り起こしそうになりますが、
地震のあと、火災が何日もつづいたようなんです」
そうなんですか。
「火災といえば、1944年には、ハンブルクの街が燃えました」
どうしてですか。
「戦争で、連合国軍に爆撃されたんです」
……というふうで。

かと思うと、
「ママ、ひとつだけ言っておきたいことがあるんです」
なんでしょうか。
「猿が、泳ぐようになったいきさつなんですけど」
猿が泳ぐんですか。
「ええ。全部じゃないかもしれませんが、泳ぐ猿もいるんです」
どうして泳ぐんでしょう。
「最初は、芋を洗うことから始まったと思います。それから…」
(以下略……私がはっきり記憶してないだけで、子どもは最後まで知識を披露していた。)

かと思うと、
「ママ、ひとつだけ言っておきたいことがあるんです」
なんでしょうか。
台湾出兵のことなんですけど」
(以下略……聞いて数日もたつと、忘れてしまいます。再現できない。)

かと思うと、
「ママ、ひとつだけ言っておきたいことがあるんです」
なんでしょうか。
「ママ、ぼくはママに会いたくてここに生まれてきたんです」
おや、これはめずらしく大事な告白だ。
「でも、パパのことは考えてなかったんです」

あら。それはパパがさびしいかも。パパは、きみのことが大好きだよ。
「そうなんですが…。ぼくが天から見おろしたときに、ママの姿が見えて、ここにしようって思ったんだけど、パパは見えませんでした。……そのとき、パパはどこかに外出していたのかな」

大事な告白なので書いておく。

もう、ね、あんた、最高だわ。