ミケランジェリーな

数日前、隣の家の少年が行方不明になった。
幸い、保護されて、深夜には帰宅できたらしい。
少年、この春、特別支援学校を卒業して、授産施設に通っている。夕方ときどき、犬の散歩をしている。会うと、「おかあさん、がんばってね」と声をかけてくれるのは、はじめて会った9年前、彼がまだ小学生だったときから変わっていない。
その頃から、ときどき行方不明になっていた。ふらり、とさまよい歩いてしまうもんだ。幸い人なつっこいので、どこかでさびしくなって、誰かに声をかけて保護される。
この少年の声が、うちの弟に似てるんだ。隣の家から少年の声がふいに聞こえたりすると、子どもの頃の、弟がいた景色のなかに連れ戻されるみたいで、くらくらする。

そういえば弟、あれから何も言ってこないが、食えているのか。

と思っていたら、昔一緒に暮らしたことのあるお姉さんから郵便。子どものシャツを送ってくれた。昨日、町内会長は、りくし君に、とわざわざ名指しで、びわとさくらんぼ持ってきてくれたし、このちび、いったいいくつポケットもってんだか。
それで、お姉さんの手紙、弟さんが行方不明らしい。どっちもこっちも、男の子たちはもう。仕事ないとか、飯が食えんとか、どこ行ったかわかんないとか。

人生にはそれぞれ癖があるみたい。隣の少年のふらっといなくなる癖も。

子ども、夜寝ているとき、のけぞって眠る。
こないだ救命処置の講習で、気道確保、というのを習ったが、そういうふうに、あごあげないと息できないか?
システィナ礼拝堂の天井画を描いているミケランジェロの格好とかを想起するらしく、「ミケランジェリーな寝相」とパパは言う。

どんなミケランジェリーな夢見るんだろ。