百人一首

今日から学校。
帰ってきた息子、国語がいま百人一首の話で、教科書に載ってる10首ほどを、クラスで一番最初に暗唱できた、と言う。
それじゃあ、百人一首しましょうか。
「うん、うん、する、する」
と、息子はりきったが、
10首、覚えたくらいじゃあね。

それでも相当私は手加減したんだが、だから彼は20枚ほども札を取れたんだが、
勝てる気でいたらしい、
あいにく、あんたの母さんは百首覚えてる。すこしは間違って覚えてるけど。
息子、負けるしかないとわかってからは、
泣くわ、すねるわ、怒るわ、
なんか全然、成長してないよね、
まず姿勢が悪いだろ、根性が悪いだろ、
向上心ないだろ、無理だよ、
だけど、途中で逃げるのは卑怯だからな。
私も言いたい放題である。

見かねたパパに
「耐えろ」と励まされていた。

久しぶりに、百人一首ならべた。ほのぼのとなつかしい。
私の母は強かったのである。母が言うには、母の三人の兄たちはもっと強かったのである。兄たちがやっているところに、下手に手を出すと、手が傷だらけになったって。兄さんたちは札を天井まで跳ね上げて、はらはら落ちてくるところをとっていたと、母が語るのを、子どもの私はうっとりと聞いた。
母たちが子どものころ、正月になると、かるたもって近所をまわって勝負していたって。昭和のはじめ、戦前の田舎のことですね。

思い出す。「けふここのへににほひぬるかな」は母の好きな札で、
「またふみもみすあまのはしたて」は私の兄が好きな札だった。
たいてい、父が札をよんで、母と私が札をとっていたのだが、参加していないはずの兄が、「あまのはしたて」の札だけは、取りに来るのだった。
それで、私は「きりたちのほるあきのゆふくれ」が好きだったんだけど、
兄はそれも取りに来た。
相手の好きな札を横取りするのが、お互いにもうほんとに楽しかった。

それから、従姉の家で百人一首するときは、
「ふしのたかねにゆきはふりつつ」の札は、誰もとってはいけなかった。いや、誰がとってもいいんだけど、従姉の脳性マヒの娘が「ふじこ」という名前だったので、それはもう、ふじこの札と決まっていて、その札は傍らの寝たきりの子にもたせてやるのだった。

そういうことを、あれこれと思い出した。

覚えなよ。覚えたら、すぐに勝てるようになるよ。
私はけっして強くないのだ。

息子「わかころもてにゆきはふりつつ」が好きらしい。「ころもほすてふあまのかくやま」も好きらしい。今度やるとき、一番最初に見つけといて、狙ってやろう、と思ったけど、
もう遊んでくれないかもしれない、という気もしないでもない。

「ゆくへもしらぬこひのみちかな」