追い出されたら

昨日の夕方、息子はパパに叱りとばされて泣いていた。

そんなにふざけてて人生やっていけると思うなよ、おまえみたいにふざけたやつと一緒に暮らすのはいやだ、出て行け、

ってことになった。
出て行け、って言われても、出て行ってどうするのか、と考えてもわからなくて、そんなことできない、と泣く。

私は笑いたいけど、パパは本気で怒ってるふりしてるし、息子は本気で泣いてるし。

それからパパが出かけたあと、息子は私にしがみついて泣きながら、
「追い出されたらどうしよう」って言う。
心配するなよ、一緒に追い出されてやるから、って言ったら、

「うん。そしたら、どこで暮らそうか。畑に段ボールで小屋つくって暮らそうか」
と、へんに前向きである。
段ボールなら、けっこういいのがあるよ。でも雨が降ったら、ぺしゃんこになるよ。

「じゃあ、木切れあつめてきて、木で小屋をつくろうか。それから無人島のロビンソン・クルーソーみたいに暮らそうか」
うん、そうだねえ。

正直、そんな元気、私ないですけどね。息子はそれで泣きやんでいる。
「その小屋に、これ持っていけるかな」と、教科書とノートと本棚の本を指さして言う。
はあ。無人島に持って行きたいほどそれらが大事なら、叱られる前に勉強すりゃいいじゃんね。

そもそもは、漢字テスト前夜なのに、苦手な漢字もいくつもあるのに、書き取りの宿題ふざけてやってないから叱られたのであって、すこしまじめに取り組もうよ。100点を目指そうとか、そういう気持ちにならないものかという、そのあたりの問題だよ、パパが言ってるのはっ。

息子、ロビンソン・クルーソーになってもママが一緒だと思ったもんだから、それはそれでほっとしたらしく、ようやく落ち着いて宿題片付ける。いつになく真面目に、ピアノの練習もする。

ところが、帰ってきたパパは言ったね。出て行くときはおまえひとりよ。

息子、泣き崩れる。

あのさ、この子は真に受けるんだからさ、冗談みたいに真に受けるんだからさ、って言ったら、そんなことは当然わかってて、パパも言ってるんだけども、
でもあんまりかいがないと思うよ、叱られて考えたのは、だから真面目にやらなきゃってことじゃなくて、ロビンソン・クルーソーごっこだよ。
自分で何かに真面目に取り組もうとか思うのは、まだまだ先だと思うけどな。

ああ。私も昔、考えた。秘密基地。それで、叱られる度に、秘密基地をつくることを考えた記憶はあるんだけど、なぜ叱られたかについては、記憶がない。

記憶がうごめく。私、漢字の宿題を近所の上級生にやってもらっていたのがばれて、でも自分がやったと言い張って、もちろん信じてもらえないが、それが不服で(と書きながら、なんて根性の悪いやつだろうと思うんだけどさ)、とにかくそれで私は家出した。一日外をうろうろしながら、近所の材木置き場を秘密基地にしようと考えた。夜遅くなって、隣のおばさんにみつかって連れ戻されたけどね。
小学校5年のときだ。



朝、登校するとき、子どもは言った。
「ママ、ぼくの取り扱いについてなんだけど、パパに言っといて。ぼくはパパと一緒にいたいんだ」

きみの取り扱いについてだけど、追い出して5分もしないうちに、パパは迎えに行くと思うよ。