どうしよう。

あー。どうしよう。

義父さんが電話かけてきたんだな。それは自分の家にかけたつもりが、まちがってうちにかかって、私が出たんだな。すると、ちょうどいい、あんたに話しておきたいことがある、というので、いきなり私は緊張したが。
わしも年をとったし、あんたのお父さんも年をとったろう。それで、一度四国に行って、お会いしておきたいと思うんだが。

そうか、父は孫が生まれたときに一度こっちに来たきりで、そのときは義父さん忙しくて、義母さんとしか会ってないのか。

いきなり胃が痛くなってきた。

なんかなあ。住んでる世界が違いすぎるぞ。

あっちのお父さんとこっちのお父さんの間に立つのは私である。その場合、私は何語で話せばいいんだろう。ああ、わからん。
来るって、父の家に来るのかな。被差別部落のそのなかでもとりわけぼろぼろの、敗戦後の貧困がいまもへばりついているようなあの家に、案内していいものかどうか。誰かがどっかで傷つかないだろうか。

子どもが夏休みに釣りに行きたがっているから、帰ると思います、とは言ったものの、釣りにつきあってもらうつもりの、あのだんまりの叔父と、どんなふうにやりとりするのか。叔父の家の納屋に居候の兄のことはどう説明すればいいんだか。賭け事ですってんてんとか、そりゃいわないほうがいいよなあ。

義母さんも一緒にちがいないし、ちょっと想像つかない暮らしと思うよ。ショックだろうなあ。いらない心配させたくないけどなあ。

どういう反応になるのか、見当もつかんなあ。貧しくても家族仲がいいとかなら、まだ居心地もいいだろうからいいけど、そうでもないし。私と子どもといないと、そうでなくてもうちの男たち、目もあてられないぎくしゃくぶりだし。
そこに義父母がやってくる。
めまいしそう。

ああ、傷つくのは私だな。たとえどんな善意の理解をしてもらったとしても、それは誤解でしかないだろうと、思うもん。何かきかれても、私説明するのいやだもん。

今のところ、実家のことは何にも言わずにいることで、よけいな波風たてずにいるけど、来るって。どうすんの。こういう場合、どうすんの。

天皇陛下が車で通るとき、スラムを布でおおって隠したって話があったっけ。ひどい話だと思ったけど、その気持ちがいきなりわかった。
隠すべし。

縁がないほうがしあわせってこともあるかもしれないと思うんだけど。
あー、来るって。

どう対処するかなあ。パパが帰ってきたら相談しよう。義父母さんたちと一緒となると、あのあやしげなホテルというわけにもいかんだろうなあ。

考えただけで肩こる。