星ヶ丘ゆき

kazumiの日常雑記

呼吸するように嘘を言う

台風一過。
といっても、すこし雨すこし風、このあたりはなんでもなかった。
なんでもないが、京都の被害のニュースの、家々に押し寄せる水を見たとき、
子どものころに台風で床上浸水したときの記憶が、また生々しく蘇ってきて、その生々しさにとまどう。
玄関の引き戸の隙間から上がってくる泥水を、これ以上あがらないで、ここで止まって、とはらはらしながら眺めていた12歳の私が、すぐ傍らにいる気がした。
でも水は容赦なくごぼっごぼっとあがってきたのだが、

その程度のことでも、何十年前のことを思い出していまだにどきどきする。
被災するって、たいへんなことだと思う。



息子が嘘を言う。
顔洗ってないのに洗ったと言い、してない勉強をしたといい、読んでない本を読んだという。ゲームして遊びたいので、それ以外のことはすんだことにしてしまおうという魂胆で、他愛ないと言えば他愛ない、が気にくわない。
何が気にくわないって、平然と嘘をついたうえに、それを問いただしたら、さらに嘘を重ねることである。嘘をほんとうだと押し通そうという意地まであるし、ママならだませる、とあなどっているのもわかる。
あいにくだが、きみのやっていることは、私たちがしてきたことです。

「呼吸するように嘘を言う人間がいる」
と、騒ぎをききつけたパパがやってきて言った。
そんなことをしていたら、ろくな人間にならんし、ろくな人生にならん。

「だから、そうならないように、嘘をつかずに生きられるように、パパもママも、どれほど苦労してきたか」
と言うので、思わず吹き出しそうになった。

そうよ、嘘をついて、大人がたやすくだまされるときの、そうして叱られずにすんだときの、自分のわがままが通るときの、小気味よさ。
あれは大人がだまされたんでなく、あきれて見捨てられただけかもしれなかったんだが、といまは思うけど。

息子、「嘘つきは出て行け」と言われて、泣く。それからしばらくすねていた。

──私は「嘘をつくな」という教育も必要だと思うんです。優等生は嘘をつくんですよ。
──佐藤優『ぼくらの頭脳の鍛え方』
ええ。そのとおりと思います。

夕方、図書館に行くと、療育のときに一緒だったいま3年生のDくんのママにあった。Dくんもその兄も一緒で、よその子ってちょっと見ない間におっきくなるなあ。それでDくんのママが、うちの息子見て、
「小悪魔の目になったね」って言う。
でしょう、目つき悪いでしょう、最近、根性も悪いよ、嘘つくし、って言ったら、
「いやいや、そういう年頃ってことよ。目に小悪魔がはいって、きらきらするのよ。おかあさんのいうことをきいてるだけの子じゃなくなって、自分っていうのが出てきたなって。うちのおとなしいDくんも、最近、小悪魔はいってきた」
と言う。ああ、なるほど。うん、ほんと小悪魔だ。

そんな話をしたんだよと、パパに話していたら、息子が言った。
「ママ、ぼくのこと、本当のことを言ったの? どうして本当のこというの?」
するとパパが言った。
「じゃあ、おまえは、ママに嘘をつけというのか?」

私は笑ったが、息子はうなっていた。彼は困るとうなるのである。



丸山薫の詩を思い出した。中学校の頃に好きだった。

   「嘘」  丸山薫

少年の嘘は
さまざまの珍らしい夢をふくみ
波を縫ふ海鳥の白い翼の巧みをもち
ちちははもそれに欺(だま)されるときばかりが
少年の眼には世に崇高(けだか)く見えた
だが少年が悲しくないと誰れが云はう
あまりにも美しいものが遙かに飛び来つて少年の心に住(すま)ふとき
たとへば時ならず花がいちどきに咲き匂ひ
または遠い空の涯(はて)の夕暮がこの世を薔薇色にかがやかすとき
欺されてゐるのは自分ばかりだと
空や雲に涙を流さないと誰が云はう