パヤタス・レポート 7 グレース!

1988年10月の雨の朝に、ゴミ袋に入れて捨てられていたのを、スカベンジャーに拾われてレティ先生のところに連れてこられた女の赤ちゃん。最初に会ったのは彼女が5歳のときで、いまの私の息子より小さかったのか、毎年どんどん大きくなり、21歳のお姉さんになっている。
グレースは、生まれつき心臓に穴が開いていて、ずっと病院に通っていて、10年前、11歳のとき穴をふさぐ手術をした。手術費の寄付に協力くださったみなさま、ありがとうございます。

21歳のグレースは、カレッジの2年生になった。授業料はレティ先生の息子たちが出してくれている。専攻はホテルマネジメント、とか。味の素の料理の本などもっていたよ。
去年も、何かあやしげな実験作を食べさせられたが、いや、なかなかおいしかったけど、今回は寿司、だった。調理実習でつくったのの残りをタッパーに入れてもって帰ってくれた。3時間も立ちっぱなしで調理していたから、足がぱんぱん、とか言いながら。
マンゴー入りの巻き寿司。それからカスタードプティングとオレンジゼリー。
おいしい。マンゴー入りの巻き寿司。マンゴーと、きゅうりか何か瓜系のものと、そぼろか何か入っていたかな。マンゴーあう。すごくあう。
翌日は、フルーツ缶とゼリーをまぜたものを深夜のおやつにつくってくれた。

リテックスの市場のところでジプニーを40分も待つこともあるみたいで、遅い日は夜9時過ぎに帰ったりしていた。帰るとさっそくボーイフレンドや友人に電話していたり、ごそごそパソコンを引っ張り出して、調べごとはじめたり、ああ、グレースが青春している。いやもう、見ているだけでしあわせだったわ。

電話線は通っていないけど、あれこれ機材を取り出してつないで、こわれかかったようなパソコンだが、インターネットできる。ところがこれが、画面がかわるのが、とろい。10分待て、と平然とグレースは言うのだが、ほんとに10分ぐらいかかる。あきらめたころ、何をしていたか忘れてしまったころ、もう眠ってしまったあとになって、ようやく画面が呼び出されている。つきあっておれん。やーめたっ。

学校の経理の表は、グレースがパソコンで打ってくれて、コピーして準備してくれていた。とても美しい出来映えだ。それを見ながら、レティ先生とあれこれ相談。来年度から先生の給料をあげたい、という。どの先生もとっくに見習いの時期を過ぎて、立派になっているのだ。いいよ、もちろんいいよ、と答えたあとで、考える。20数万円余分にいるぞ。ぞぞぞぞ。

グレースは、今度はマンゴーのカクテルをつくってくれるそうである。マンゴーシェイクと砂糖とウォッカを混ぜるとおいしい、らしい。

昔、ボラカイ島で、夜に浜辺の店でカクテル飲んで、どれもこれも強烈に甘くて、悪酔いしたのを思い出すけど、あれから、サンミゲルビール以外は飲まないようにしてるんだけど。
グレースのカクテルも砂糖入りだそうです。
木曜に飲んだら、土曜まで目覚めないそうです。
それでアテ・カズミは金曜のフライトはできない。つまり冗談ですね。

なんかなあ。グレースみていると、ほんとにしあわせな気分になる。
青春ていいなあ、と思った。
自分が20歳ぐらいのときって、自分にも他人にもうんざりしていて、世の中も人間も気持ち悪くて、憎みたいか悲鳴をあげたいかで、こんなふうなすこやかさとは、まったく無縁だったよ。

昔、5歳のグレースが私と遊んでくれたことで、私はいささか救われるところもあったりして、密かに感謝もしてるんだけど、こんなに気持ちのいい大人になってくれて、ああ、ほんとうにうれしい。