運動会の前の日のこと

昨夜あれから先生に手紙を書いて、今朝息子に見せたら、うれしそうに持っていった。
ところが1時間目、先生が連絡帳や手紙を見る前に、組み体操の練習があり、ぼくは飛行機はやらないと息子は言ったのに、三人組のもうひとりのKが、どうしてもやらなきゃだめだと言い張り、事情を知っているムーミンも味方もしてくれず、結局、息子は飛行機されて、また落とされた。背中から落ちたそうである。背中なのですぐに態勢たてなおせず、さすがにまわりの子どもも先生も気づいてやってきて、心配された。そのあとはしばらく休んだ。
次の時間に先生は連絡帳と手紙を読んだ。それからすぐにポジションを変えてくれた。飛行機は、息子は別のふたりと組むことになり、飛行機ではなく支える側にまわった。三段ピラミッドでは土台にまわった。

夕方、先生から電話。「ほんとにご心配かけて」と先生。「ほんとに心配しました」と私。
あれこれ話を聞く。
息子は、新しいポジションでとても歓迎されたそうである。
飛行機では、他のふたりが「彼は賢いから、どう動けばいいのか的確に判断してサポートしてくれるから必ず成功するんだ」と息子と組むことになったのを喜んでいた。
三段ピラミッドでは土台だった子が上に乗ることができて、大喜びで、しかも「実際上に乗ってみると、おまえのこわいという気持ちもわかるよ」と息子に言ってくれた。
Kとムーミンがどうすることになったのかは知らない。別の子を落とすのでなければいいんだけどね。

「残念ですが、明日は雨ふりませんね」と先生。(息子は雨を願っていた)「晴れますね、先生、よかったですね」と私。(先生は晴天を願っていた)。「本当にお疲れさまでした」「明日は楽しみにしていてください」と互いにねぎらって電話を終えた。


ところでひとつ、息子の胸に刺さったトゲがあった。
技を失敗するのは、ぼく(私の息子)に勇気がないからだって、ムーミンの父さんと母さんが話していたのだそうである。
ムーミンが息子にそう言った。
あまりのセリフに、息子は絶句したそうだ。

話を聞いた私が激怒した。
はっきり言って、技を失敗するのはムーミンのせいだ。なのに、こわいのを我慢しつづけて飛行機して落とされつづけてきたうちの子に向かって、勇気がないなんて、よくそんなこと言える。まずおまえらの息子がうちの子を何度も落としたことを謝れよ。
2人技のとき、逆立ちができないムーミンの重たい体を必死に工夫して支えているのはうちの子だ。学校でムーミンの宿題を助けてやっているのもうちの子だ。なのに勇気がないなんて、おまえらだけは絶対に言っちゃいけないセリフだ。なんにもわかってない。ふざけんじゃねえ。
こんな侮辱はゆるせない。絶対許せない。断固謝ってもらう。

するとパパが言うのだった。ムーミンのパパとママはそんなことを言う人じゃないよ。ムーミンが嘘をついてる。
たぶんそうだ。親には言わないで、ってムーミンは言っていた、と息子が思い出す。

じゃあそれを確認しよう。

ムーミンママに電話する前に、先生から電話もらったので、私は洗いざらい言いました。明日の朝、先生は、息子とムーミンとの話し合いをもつでしょう。
それからムーミンママに電話して、確かめたら、やっぱり嘘で、ムーミンは今夜叱られたはず。

自分の友だちを傷つけるために、自分の親を貶めるようなことをして、それは卑劣というものだよ。

私がものすごく怒ったので、息子はそれですっきりしたようだった。きみは勇気のある子だよ。勇気がないのはムーミンだよ。悪口の言葉は、悪口を言っている人間にまずあてはまると思えばいいよ。

ムーミンは、友だちって顔をして、ぼくを利用するだけ利用しているけど、でも自分のことしか考えてないよ」
と、息子は冷静に認識している。
「それに嘘つきだ。でも嘘ってばれるよね。ばれるかもしれないって考えるのはこわいだろうね。ぼくはもうそんなこわい思いはいやだ」
と言うのがおかしい。

明日運動会。無事故でお願い。