ドレス!

発表会の衣装をどうする?
なんて話をするおかあさんに、自分がなるなんて夢にも思わなかったことでしたが。 そういう話をしている。 

息子は3歳から小学校2年までエレクトーンのグループレッスンを受けていた。そもそもは、幼稚園はまだ無理と判断したときに、でも「教室」というところに慣れさせようと思って通わせたのだ。いまはピアノの個人レッスンだけになったが、年に一度、以前同じグループだった子らと一緒に、アンサンブルの発表会に出ている。その衣装の相談。
いつも、ほかのお母さんたちにまかせているのです。まず女の子の衣装を決める。それにあわせて、男の子のを決める。
このグループはなぜかずっと、あとで普段着に使いまわせるようなものばかりを選んでいて、安いし無駄もないし、よかった。
去年は、演奏した曲はスターウォーズで、男の子は黒いシャツとジーンズ、衣装代は銀色のマフラー100円だけですんだ。あれが最安値かな。
今年は、宇宙戦艦ヤマトなんだけど、女の子たちがついに言ったらしい。

いつも普段着ばっかり。私たちはドレスが着たい!

宇宙戦艦ヤマトにドレスの女の子。どうする?
こんなことなら、ヤマトじゃなくて、クラシックっぽいのにすればよかったねえって、電話の向こうでMくんのママが言う。ヤマトって決めたのはMくんなんだけど。彼はもう、今年でレッスンをやめるので、このメンバーでは最後の発表会。
どうするって、女の子たちがドレス着たいならドレスにするしかないよねえ。
男の子は?

って、私はもう何にも思いつかないので、なんでもいいです、おまかせますのでよろしくお願いしますって、今年もやっぱりそうなった。
それで。
女の子は赤いドレス、男の子は黒いスーツ、ってことになったらしい。お母さんたち不思議なんだけど、そこそこ安くて適当なものを見つけてくるよねえ。
サイズは?  すこし大き目にして、袖と裾は縫い上げるっと。 



なんでもいいよって、私は言ったが、息子は、そうは思ってなかったらしい。
「軍服みたいなのがいいなあ」などと言っている。
でも最近は、詰襟の制服というのも、見ないしなあ。そういうのはないんだよ。 でもスーツだから、とてもかっこいいスーツだから。(見てないけど)。
って言ったら、ふうーん、ってなんかうれしそうだった。

それで、彼は言ったのだ。
「どうしてぼくの家には七五三の写真がないの?」

へ?
もしかして、写真ほしかったの? 袴みたいなやつ着て写真撮りたかったの?
「うん、ぼく写真欲しかったのに」

そんなことを思うとは夢にも思いませんでした。写真撮ろうなんて思わなかったな、そういえば。
そういうのは、どっか特別なお家の特別な子どもがしてもらうことだと、思っていたけど、でも最近はそうでもないんだなと、おもちゃ屋の近くの写真館なんか見て、思い直してはいたんだけど。

そうだ、ちょうど5歳になった11月に、きみは両耳とも中耳炎やって、手術して泣き狂って、ついでに目のまわり、アレルギーで真っ赤にはれてて、
とても写真撮ろうって顔ではなかったんだよね、で、そのまま忘れてた。

「それで、ぼくは来月10歳になるんだよね。だから二分の一成人式だから、写真がいると思うんだ」
いや、べつにいらないと思うけど。いるのかな。
もしかして、七五三の写真みたいな写真ほしいの?
「うん。……いや、別に、もしママが写真が欲しいと思ったら、ぼくは撮ってもいいなと思って。」

まぎらわしいやつだ。わかった。ドレス着たいんだ。
「ドレスいやだよ。ドレスじゃなくてさ」
わかってるよ。ドレス着せても似合わないから着せないよ。 袴でもなんでも好きなもの着ればいいよ。

でも口のまわりの皮膚炎なおさなきゃ。
遠足でどこを転げまわったのか、なおっていたのを、また真っ赤にはらしてもどってきた。

写真いるのか。
あれこれと、ものいりな誕生月である。