とうとう!!

とうとう!! スマホを持たされることになった。ずいぶん抵抗してたんだけど。

10年来、息子名義のキッズケータイを使っていた。ほぼ家族との連絡のためだけ。連絡とれないと困るというから。ケータイなんて持ちたくないし持たされたくないと思ってたから、持ったことがない。キッズケータイ以外。充電してないとか、持たずに出ているとか、始終叱られてましたが。

それでも多少は便利だった。10件ほどしかつながらないから、帰省するときは帰省先の、上京するときは上京先の、友人たちの連絡先をその都度入れかえるというやり方で、でも公衆電話探すのが大変になってからは、助かった。ところで、難しい漢字なんか絶対わからない、単純で不便な、私の、お気に入りでも何でもないこのキッズケータイが、まもなく使えなくなるらしい、それならもう、持たない、何にも持たない、と思ったんだけど、あなたが自分の連絡網を逃れることで、まわりがそのサポートをしなければならないわけですよと、家族に説得されて、お店に連れてゆかれた。

なんでこんな難しいの。こんな難しいのを、みんな平然と使ってるって、すごいな。私は説明聞きながら、ぼうっとしてしまった。無理無理無理、と思った。でもやってきた。私のスマホ。それでおうちに帰っていろいろと設定するのに、全部息子にしてもらったんだけど、友人知人の連絡先というものを、私は息子のスマホに記録しておいてもらっていたんだけれど、それを移すのはめんどくさいと息子が言うので、それを自分でやるのが、えらくしんどかった。何かまちがっていないとも限らない。突然、どこかに電話をかけたらしくプルプル鳴り出して慌てたり、いーやこわいこわい。

文字が小さいし、触ったら何か起こってしまうので、どきどきするわ。ま、そのうち慣れるかもしれません。

むかし、ポケベルというものが登場した頃、休みなのに会社から呼び出されている友だちが、鎖つけられた犬みたいだとか自嘲してたけど、そんなもん持たされるなんてぞっとするなあ、連絡がつかないという自由がないなんて、いやだなと、思ったんだけれど、今では、ケータイ持ってませんっていうと、えっ?ていう顔される。えっ?ていう顔されるから。いつのまにそんなにみんな持つようになってんの? 持ってて平気なの?
という感覚が理解されないくらい、時代は変わっているんだね。


失ったのは待ちぼうけ。

理由のわからない待ちぼうけの時間に眺めた、夕暮れの空の色。無駄に傷つけたり傷ついたりしたすれ違い。どこへ行くのも何をするのも、地図が無くて手探りで迷う感じ。
それらが消えてしまったら、何が残るのだろう。青春というのは、私は、そういうものばかりでできていた気がするんだけど。楽しかったか苦しかったかは別として。


☆☆

冬に、父が亡くなったあと、父の家から、息子は電話を持って帰った。めずらしいからこれが欲しいって。ジーコロロジーコロロとまわすやつ。たぶん半世紀近く、45年くらい、使っていたと思う。ダイヤルに指をかけると、埃がまとわりついたから、晩年の父は、電話はもっぱら受けるほうだったと思う。父も電話をかけるのは嫌い、私も嫌い、だったから、父が電話をかけてくるのって、誰かが死んだときだけだった。

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昔、電話というものは、路地に1軒あった商店にだけあった。商店のおじさんは電話がかかると、近所の誰彼を呼びに行くのが仕事のひとつだった。それからある日わが家に電話がきた。緑色のこの電話。父が仕事で使うからと言って、工事を早くしてもらったということだった。電話が鳴ると、近所の誰彼を呼びに行くのが私の仕事になった。あの頃、小学校の名簿には(いまはプライバシー保護で公にされないけど、昔は全生徒に配られていた)、住所と電話番号が書かれていて、電話のところに(呼)とあるのは、近所で呼び出してもらうんですよ、という記号だった。

たぶん、わが家に電話が来て間もなかった頃、隣のおばさんのところに、子どものころに別れて行方もわからなかった娘から、どこでどう探し当てたものだか、電話がかかってきた。わが家の電話で、おばさんが泣きながら、娘さんとやりとりしているのを、私の母も傍らで涙ぐみながら聞いていた。あの夜の妙に熱っぽい空気を、なんとなく思い出したりする。

それから、小学校6年のとき、毎週のように電話をくれる友だちがいた。私が習字の時間に習字道具を忘れるから、明日忘れないようにねって。あの子は中学1年のときに死んでしまった。やさしい友だちだった。

それから、借金取りの電話が狂ったように鳴り続ける日々がやってきた。電話の音を小さくするとか電話線を抜くとか、できなかったのか、できることを知らなかったのか、毎晩夜中まで、何度も何度も、けたたましく鳴り続けた。あの恐ろしい日々。またそういうときに、私は受験生だったのだ。あれから私は電話が嫌い。
たぶん私が、よく電話をかけるようになったとしたら、どっかおかしい。恋に落ちたか精神を病んだか、してると思う。

今でも。電話が鳴ると、「いませーん」と返事してたりする。こわくないこわくないと思って取る。でも、父が死んだという電話のあとは従姉が死んだという電話だし、電話こわいわやっぱり。

音が消せる、ということだけは、ケータイとかスマホとか、いいなと思う。

まあいいや。とにかく私はスマホを持たされた。
それでさ、私のスマホ2階においといたわけ。それで息子は、勉強するときはスマホをみないですむように、自分のは1階においとくわけ。でも隣の部屋に私のがあるわけ。それで私がいないと勝手に開いて、遊んでるもんね。さっそくパスワード変えましたっと。