大王を呼び捨てにして

試験が終わって、答案が返されてくる。息子が持ち帰る教室のなかの話が、いろいろとばかばかしい。
息子はI君に、前回の数学は35点差をつけられて負けたが、今回は勝った、と喜んでいるが、聞いたら、ほんの1点差。Fくんは洪水ちゃんに勝った、と喜んでいるが、それも1点差。女子のKは、息子に社会で1点差で負けて悔しがっていた。その1点は、アレクサンドロス大王を呼び捨てにしたから。-1点。そのKをせせら笑っていた息子は、5教科の合計点では、Kに1点差で負けている。
その息子が、悔しくて悔しくてならないのが、英語の痛恨のミス。「manga」と書いたつもりがなぜか「man」としか書いてなくて、作文ひとつオシャカ。「manuke」と訂正していた。
めくそはなくその世界だな。

洪水ちゃんの給食係りの件、息子は係りが一緒になることはないので、男子のMに、先生が、軽いものを残してやったらって言ってたよ、と伝えたら、「いやだ」と言った。なぜ、と聞いたら「あいつには恨みがある」と言う。どんな、ときいたら「存在自体に」と言う。
息子はあっけにとられて何も言えなかったようだが、
母にその話をして、そんなばかとつきあうな、と言われている。Mは成績よくないだろう、お調子乗りで人気者に見えるが、いじわるだろう、と聞いたら、うなずく。
ぼくはいつも「チビのくせに」と言われている。
いじわるな奴は、だめだよ。

そろそろ看過できない状況になってきたらしい。洪水ちゃんが、きらわれている件について。「菌が移る」とかそういうようなことについて、生徒ひとりひとり、先生に呼び出されての事情聴取がはじまっている。先生たちにはがんばってほしいとこですけど。
洪水ちゃんはたぶん、避けられても避けられなくても、ひとりだけど。

発達障害については、先生たちの理解が必要なのはもちろんだが、子どもたちについては難しいなと思う。理解がないことによってもいじめや差別は起るが、理解や知識があっても、かえっていじめや差別の正当化になったりする。
そのあたりのことを感じ取っているので、息子はとても注意深い。中学になってから、自閉症スペクトラムのことは、先生にも言わないでほしいと、言う。なので言わないでいる。気づく人は気づくだろうが、気づかない人は気づかないだろう。どちらでもよい。

息子にとっては、クラスに洪水ちゃんがいることで、世間というものについて、理解できるようになったことはたくさんある。そうして世間が理解できるようになった分だけ、自分の振る舞いに自信がもてるようになってきている。
そんなわけで、我が家的には、飽きても飽きても、洪水ちゃんはアイドルなんだけど、それはまあ、内緒の話だ。