何から書けば。
冬に帰省したときに、息子の様子がおかしかった。頭皮を引っ掻いて瘡蓋になっていたし、眉毛も抜けていた。試験ぼろぼろ落としていた。秋から謎の体調不良だったらしい。きっと、自分で思っていたより体力がなかったし、思っていたより集中力がなかったし、思っていたより、不器用だった。
結局4つ再試で、2月は潰れ、でも大丈夫よ、と言っていたが、1つ不合格だった。
そんなはずはない、と息子は思った。解答開示を求めて異議申し立てする、と言った。
☆
自分が学生だった頃のこととか、きれいさっぱり忘れて、しあわせだったのに、私。
助けてって言えなかったし、言うことを思いつかなかったし、言う先もなかった、あたしは、ま、いっか、死んだっていっか、と思って生きてたな。
☆
万が一、留年したら、奨学金が支給停止になる、授業料免除もなくなる。どうやって学生生活を続けさせられるだろう。授業料だってバイトして貯められるような金額じゃない、どこに借金すればいいのか、考えなければならず、親も、かなりぞっとしたのだ。
思い出したくもないんだけど、むかし高校生の頃、借金の取り立ての電話が毎晩鳴りやまず、ヤクザがやってきてたころのことを、思い出す。
あのころ、学校からの帰路、家が見えてくると、体がふるえた。古い木造の二階家だったけど、家は怯えた獣のように思え、私は、怯えた獣の腹のなかに帰っていかなければならない。
自分にお金がないのは全然かまわないけれど、借金はいやだ。子どもに借金させるのはもっといやだ。
だから、給付型の奨学金は、ほんとうにありがたいのでしたが、留年したらたちまち支給停止される。その奨学金だけをたよりに進学した子は、どうなるんだろう。留年なんて、するときはする。18歳や20歳の子が失敗せずにすむとしたら、そのほうがむしろ奇跡で、あたりまえじゃない。それをあたりまえというなら、そのあたりまえに追いつかない子に対して、制度はとても冷酷だ。
奨学金が支給停止されて経済的に詰んでしまうのは、それは学生の落ち度でなくて、制度の不備だと思う。せめて、進級したら再開できるのでなければ。
☆
3月になってしばらくして、解答開示から、1問の可否を争って、学部長宛て異議申し立てしたという息子を、迎えに行く。いろいろ疲れたんだろうな、息子はへたっていた。なんというか、綿が半分抜けたぬいぐるみみたいな感じ。もう、疲れて、どうでもいいって感じ。
私も、どうでもいいって感じ。どう転んでも、きっと楽しい人生だわ。
それで温泉いくのだ。たまて箱温泉。開聞岳のあたり。海に向いた露天風呂。雨模様の空で、風が吹いて、お湯は温かいけど、風は寒い。遠く屋久島のほうの海に、雨の柱が立っていて、やがて雨も降り始めて、顔は雨に濡れる。あったくて寒い、なんだかすごい天候を裸で存分に堪能した。
結果だけ書いておくと、異議申し立ては通って、無事進級になったんだけど、それを待ってる1か月がさ、なかなかしんどかったよ。