うるさくない

好きな子がいる、って息子が言った。おや。
ないしょって教えてくれたが、クラスの子で、私も知ってる子だが、家も親もわかるが、
じつにおとなしくて、目立たない、ほとんど存在感のない子なんだけども、
どこが好きなの? ってきいたら、
「うるさくないから」
って言うから、笑ってしまった。
たーしかに。ほかの女たち、うるさい。
そういえばあの子は、近所の同年齢の女の子のなかで、唯一、いままでうちの子をいじめてない。
それで、席かえで、次は隣同士になるそうで、
「アメリカン・ドリームみたいだ」
って言っていた。

いまは隣の席が、一年のとき、よく叩かれた男の子で、さすがにいまは叩かないが、何かにつけて、「真似しただろ」とか「最悪」とか言ってくるのが、うるさい。見たところ、このふたりは、興味の持ち方とか得意なことが似ている。それで相手は、自分のテリトリーを侵されたように感じるんだろう。一緒に活動したがりつつ、排除したがるという矛盾した態度である。席が離れても、うるさいようなら、また相談しよう。

うるさいのがもうひとり。
クラスは違うが、登校班が同じRちゃんが、下校の道で、あれこれ言う。
「10歩すすめとか5歩さがれとか、命令して、ぼくをロボットみたいに動かそうとする。うっとうしいので無視していこうとしたら、言うこときかないと、ストーカーって呼ぶよって言うんだ」
もう7回ほどもそんなことがあった。
そろそろ限界? ってきいたら、限界って言う。

Rちゃんは、そりゃ最低最悪。言ってはいけないことを言っている。何もしてない人に犯罪者の濡れ衣を着せようっていうんだから。とっても卑劣。
「ストーカーって言いたければどうぞ、って返事しようか」
って、息子。
そりゃ、あとで自分が苦しいよ。T君に夜中に殺しに行くって言われて、「どうぞ」って返事したあと、自分が苦しかったでしょ。
「うん」
それは返事のしかたがちがうんだよ。
「なんていえばいいのかな」
たとえば、おまえ、いやなやつだな、とか、いじわるだな、とか。……でも、言えないだろうな。
女の子のうっとうしいのは、傷つけたの傷つけられたの、ほんとにうっとうしいから、逃げるのが一番いいよ。坂道走って逃げろ。
とりあえず、Rちゃんのことは、親に言いますか。先生に言いますか。
「先生に」って言うので、連絡帳に書く。それで変わらなかったら、お父さんとお母さんお話ししましょうかね。
近所だし。

まわりの子どもらのうるさい言動は、息子にはほとんど謎である。謎であるが、そういうことは、しばしば起きるものらしい、ということは了解事項になってきたらしく、いたって冷静なんだが。

アメリカン・ドリームは、どうなるんだろうなあ。
うるさくない、以外で、彼女のどんなところが好き?
「んー、よくわかんないよ」
……

いじわるをしないというのは、もうそれだけで美徳である。