パアララン・パンタオ2013年8月⑨

☆エラプ校再訪。

木曜午後、留学中のレイカちゃんが「いま試験が終わりました」ってやってきた。Cimg3972


しばらくして、レティ先生の次男のボンもやってきて、車出してやるから、エラプ校へ行こうということになる。火曜日は風邪で休みの子が多かったけど、今日は生徒も多いよ、とレティ先生。
でもレティ先生は調子が悪いので(薬の副作用で眠気がすごいらしい、ときどき起きてくるけど、ほとんど部屋で横になっていた)、ジンと私とレイカちゃんとで行く。

着いたらちょうど、クラスが終わったところで、子どもたち帰る支度をしている。せっかくなのCimg3960
で、クラス写真撮った。ライジェム先生、キラキラ光るヘアバンドしてた。「きれいね」って言ったら「ありがと」って言うのが、かわいい。


学校の前に、屋台のアイスクリーム屋さんとかき氷屋さんが来ていて、レイカちゃんとアイスクリーム食べる。白と紫とまだらに積みあげてくれる。紫は紫いものアイスクリーム。小さくて子どもサイズなのがいい。安いし。
子どもたちの下校時間みはからって、やってくるんだなあ。 Cimg3961

アイスクリーム食べて、教室で先生たちとお話して、さて次はかき氷、と思ったら、そのときはもう、アイスクリーム屋さんもかき氷屋さんもいなかった。
サーヤン(残念)。

エラプ校の若い先生たちはみんな、いろんな事情で、おそらく金銭的な事情で、カレッジを中退している。それでジェイコーベン(レティ先生の三男)たちは考えている。どこか、もしスポンサーを見つけることができれば、Cimg3965
ここの先生たちを、カレッジに行かせてあげたい。たとえば、半日パアラランで教えて、半日カレッジに行く。それで教員の資格をとれれば、公立の学校で20000ペソほどもらって働くことができる。自分の人生をつくってゆける。

それはとてもいい。

きっと、去年までパヤタス校にいたジェイン先生も、その方針で、カレッジに通うことにしたのだろう。授業料をどう工面することにしたかは聞いてないんだけど。
エラプの先生のひとり、アン先生は、来月、試験を受けるらしい。Cimg3967



あれこれと、先生たち同士のミーティング。やってきた子どもたちのにおいを嗅いで、臭い子には、体を洗ってからくるように言わなくちゃ。耳と爪もチェックしなくちゃ。そんな話も。

レイカちゃん、以前レティ先生に聞いたらしい。
パアラランに、政府からの援助はないのか。──ない。
なぜないのか。──政府から学校と認めてもらっていないから。Cimg3970

なぜ認めてもらえないのか。
これは初めて知ったけど、学校の面積に対して、子どもが多すぎる、というのが理由らしいのだ。
子どもひとりあたりこれだけの面積が必要、というのを確保できてないということなのだが、そりゃ、無茶だよね、と思う。
学校を広げることも、子どもの数を減らすことも、できない相談だもん。
お金はないし、子どもは来るし。

それからパヤタスに戻って、レイカちゃんも寮に帰った。暗くなる前に。

パヤタスを訪問する学生たちに、レティ先生やジンが繰り返し言っていた注意事項は次のようなことだ。パアラランのフェンスを出たら、カメラやケータイは鞄から出さない。高価な時計やアクセサリーも身に着けない。明るい時間に行き帰りする。ひとりで集落を歩かない。
それから、私はつけ加えたいんだけど、犬の糞にも気をつけて。


☆夜の教室

パヤタスに戻ると、はじめて見る小柄な女性がいる。キッチンで、テリーさんがあれこれ教えている様子からすると、新しいお手伝いさんというふうだが、はたしてそうで、マリークリス。19歳。ビコールから来たらしい。なので、母語はビコール語。テリーさんとマリアペレは、ビコール語がわかるっていう。

私たち、パヤタスで出会って、いま同じキッチンにいる。でもその前に、それぞれに、いろんな土地のいろんな風景を見て、いろんな暮らしをしているんだなあと、もし言葉が自由なら、そういう話も聞けるかしら、と思う。

初日のマリークリス、緊張しているのだろう、笑うことも話すこともしない。
翌日は、目があうとすこし、ほほえむようになった。

私たちは似ているよ、きっと。たどたどしく生きている。言葉も。人生も。

ボンが、年をとったよ、って言う。たぶん同い年なんだけど、私たち。私のほうが数か月年上かな。2年前にもたぶん会ってるけど、なんだか同級生に久しぶりに再会したみたいな気持ちがする。
19年前にはじめて会ったとき、私は、ホセ・リサールの詩を読もうとしていて、わからない英語を、ボンが傍らで説明してくれるんだけど、やっぱりわからなかったんだ。あとになって、あのときのボンの身振りはこういうことだったのかとわかったんだけど、
そうだ、思い出した、降り注ぐ、光が降り注ぐ、そういう意味の言葉だった。
あれからいろいろと人生は変わった。
私は結婚して息子が生まれたし、ボンは、以前の家族と別れて、新しい家族と暮らしている、らしいし。

秋田の学生たちが置いていってくれた玩具のなかにコマがある。夜の教室で、ボンとコマまわしして遊んだ。私の勝ち。

ボンが帰っていったあと、ジンとテリーさんが教室にマットレスを敷いて眠る。遅くにグレースが戻ってくる。