星ヶ丘ゆき

kazumiの日常雑記

夢と翼

 


宿題の国語のワークブックをやって、丸つけしているらしい息子のボールペンの音が怪しいので、見てみたら、やっぱり。ペンが速いのは、答え見てないから。彼は、間違っていても◯なのだ。
答え合わせ、やり直しさせて、そのワークブックぱらぱらめくってみたら、丸山薫の詩とか載っていて、なつかしいな、
本棚の「日本の詩歌」全集のなかに丸山薫があるから、息子に本もってこさせて、そのなかの「嘘」という詩を読ませた。

  「嘘」  丸山薫

 少年の嘘は
 さまざまの珍らしい夢をふくみ
 波を縫ふ海鳥の白い翼の巧みをもち
 ちちははもそれに欺(だま)されるときばかりが
 少年の眼には世に崇高(けだか)く見えた
 だが少年が悲しくないと誰れが云はう
 あまりにも美しいものが遙かに飛び来つて少年の心に住(すま)ふとき
 たとへば時ならず花がいちどきに咲き匂ひ
 または遠い空の涯(はて)の夕暮がこの世を薔薇色にかがやかすとき
 欺されてゐるのは自分ばかりだと
 空や雲に涙を流さないと誰が云はう


この詩は私の中学校のときの友だちが、見つけて教えてくれたんだけど、嘘をつくのがいいかどうかは別として、ききたいのは、きみの嘘に「さまざまの珍しい夢」や「海鳥の白い翼」がありますかってことよ。
ないでしょ、なんにも。中身ないでしょ。怠けたいと面倒くさいだけでしょ。いつまでもいつまでも、そういうつまんない嘘つかないでくれるかな。夢も翼もない、なさけない嘘つかないでよ。
……と言ったら、「ああ…」と呻いていたが。


ところで、いま同じクラスで、こないだ一緒に太宰を読んでいたMは、いまは夢野久作を読んでいるらしい。彼らがどこでそういう古い作家を知るのかというと、「文豪ストレイドッグス」というアニメから。私も見たけど、めちゃくちゃな話だったけど、息子たち、あれでひととおり、作家の名前と印象をインプットしたらしい。
それで谷崎潤一郎の『細雪』を読みたい、などと言うのである。アニメの異能力「細雪」は面白いが、本は、私、高校のときに読んで、ものすごく退屈だった記憶が。あれは図書館で借りたので、私はもってない。

さらに、坂口安吾の『白痴』を読みたいと言うから、本棚から探す。本棚の前にパソコン台があったりダンボールつんであったりするから、探すのも大ごとなんだけど、出てきたよねえ、2冊あった。私が高校生のときに読んだ新潮文庫は、紙がもう茶色い。
安吾の話のほうはうろ覚えだけど、解説の福田恒存の文は、印象に残っている。
めくったら、昔読んだ通りの文章が、いまもそこにあった。(あたりまえか)

 「〈おもりを除かなければ、翼は高く羽ばたかない〉というのは、おもりをできうるかぎり重くするというしごとと矛盾しない。矛盾しないどころか、一致する。

 こういいなおせばいいのであろう──
 おもりを重くしなくては、翼は強くならぬ。軽いおもりのために飛べなかったような翼なら、それを除いてやったところで、どうせ高くは羽ばたくまい。」


息子と一緒に本めくりながら、中学校の図書室あたりに、タイムスリップした感じがした。図書委員だったとき、土曜の午後30分開けていればよかった図書室を夕方まで開けて、お昼ご飯のあと戻ってきた友だちと、まんが読んだり、友だちが読んだ本の話を何時間も聞いたり、本の貸し借りしたり、して過ごしたけど、その頃の同級生と一緒にいる感じがした。

息子、読みたい本、何冊か持っていった。有島武郎とか志賀直哉とか。谷崎の『痴人の愛』とかも。教科書の文学史に出てくるあたりのを、というか、文豪ストレイドッグスに出てくるあたりのを。あのさ、面白いと思わなかったら読まなくていいんだからね。
「いや、面白いよ」と『白痴』を読んで笑っている息子のツボは謎である。

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畑のいちごと庭の都忘れ。