世にあってひとの境涯をちがえるものは

長田弘『本に語らせよ』は、泣きたいほどいい本だった。今年5月に亡くなった詩人の遺稿集。

「世にあってひとの境涯をちがえるものは、それぞれが胸中にもつ詩のちがいです(略)。みずから恃むに足る言葉としての詩を、わたしたちは胸の奥に、いったいどれほど折りたたんでいるでしょうか」

メモ。


☆学びの標的はただ四つ。「正なり(中正を失わぬ)」「大なり(自分を卑小にせぬ)」「精なり(万事に心を用いる)」「深なり(思いを繋ぐところをみずから定めること)」幸田露伴

☆最良の働き者とは「もっとも多くの仕事をする者」でなく「もっとも高い動機で働く者」内村鑑三

☆「あなたは生きてきたではないか。それこそがあなたの仕事の基本であるばかりか、もっとも輝かしい仕事なのに」「自分の存在を誠実に享受すること」「耳を傾けつつ、一緒に歩いて行けばいいのである」モンテーニュ

☆「暮しは低く思いは高く」ワーズワス。

中江丑吉は、中江兆民の息子。その書簡集から。
「子供のとき磁石のオモチャをもって砂中から黒い鉄粉をかきあつめていた事を、この頃は一寸々々思いだします。砂が躍り上ったり、渦巻きを起したりしている中から、真黒な小さな鉄粉だけが吸収される短い時間はやはり、それよりやや長くとも我々の短い一生の同じ時間であり、しかもこれはまたさらに悠久の生活の同じ時間であります。倒行逆視や昼夜の転倒は小砂と変わりません。私は子供時代のこうした想い出をもって、毎日毎日世界の各方面で死んでゆく無数の人たちのことを思います」