逃げる理由

息子、苦手な男子ふたりに声をかけられる。わりとしつこく、通せんぼされたりする。避けて逃げると「無視した。人種差別だ」と言われる。耐えがたくなったらしく、連絡帳に自分で書いた。

すると先生が、隣のクラスのふたりを呼んで、話し合いをもってくれた。息子がふたりを避けるのは、息子には自明のことなのだが、ふたりは「遊ぼうとおもって声をかけたら、どうして逃げるのかがわからん」と言ったらしい。たぶん、ほんとうにわからないんだろう。

ひとりは1年生のとき同じクラスで、入学当初から毎日のように息子をバシバシ叩いていたのだ。4年生になってまた同じクラスになると、今度は口が悪くて「バカ」とか「チビ」とか言った。もうひとりは、3年の時、息子のパンツを脱がした数人のうちのひとりで、自分がいじめたことの正当化をするために、息子がひどいことをしたという濡れ衣を着せたこともあるのだった。そういったことを、息子は忘れていないが、彼らは覚えていないだろう。時間は、彼らの中で流れ過ぎ、息子のなかで止まっている。


同じ場所にいても、見えている景色は全然違うのだ。

こんどはどんなひどいことをされるだろうと息子は身構えるのだが、被害妄想かもしれないよ、と私が言ったときは、すごく怒った。「用心深いと言ってほしいね」だって。

被害妄想とは思いませんよ、彼らはそれだけのことをしてきたのだから、と先生に言ってもらって、自分ひとりで緊張して身構えて過ごしていたのが、すこし、心が楽になったようだった。ふたりのことを、違う見方もできるかもしれないよ、でも、そう思って見てみても、やっぱりいやだと思ったらしょうがないね、と先生は言ってくれたらしい。自分の気持ちに自覚的になれるように、促してもらったかな。

向こうの「遊ぼう」が息子には通じないし、息子の「いやだ、声かけてくんな」が向こうには通じてない、わけだった。

難しいね。