カフカ的?


 あと4か月と医者は宣告したが、父は信じなかった。むしろ、母は回復すると、いっそうかたくなに信じた。奇跡はおきて医者もびっくりするに違いない。もし回復しないとしたら、それは自分と一緒に奇跡を起こそうとしなかった役立たずの子どもたちのせいなのだ。
 それは私が見た光景ではなく、そばにいた人から聞いたのだが、もうほとんど何も食べなくなっていた母が、何日ぶりかに大量の排便をして、父は新聞紙にくるんだそれを持って、興奮していた。父の妄想のなかでは、便と一緒に脳の腫瘍も流れ出たに違いなく、それは明らかな回復の兆しだった。
 それから数時間後、母が死んだ。医者の診断のとおりに、4か月後。

   子どものウンチを捨てに行きながら、そんなことを思い出したのはたぶん、手もとのカフカを読み散らしていたせいだ。あの日々の父の心は、巻き込まれた私たちにとって残酷だったが (父は決してそのことに気づかないだろうが)、 もしかしたら父自身にとってもっと残酷だったかもしれない。

   ライブドアの社長逮捕のニュースを、口をあけて見ていた。虚業錬金術、一週間で五千億円が消えたこと。カフカの小説の続きみたいと思った。Hはどんな「審判」を体験するんだろうか。ともあれ、しっかりごはんを食べて。