ダンボールハウスのつくりかた

昨日、幼稚園バスを降りて歩きだしたちびさん、手にした紙きれを、幼稚園で何か落書きした紙なのだが、もういらないから捨てるんだ、という。「家に持って帰ってゴミ箱に捨ててよ」と私は言った。
私は言ったのに。
ふと見ると、紙きれがない。問い詰めると、電信柱の下に捨てたという。「捨てるなと言ったよ。拾っておいで」と言うと、ふと困った顔をして「ひろえないんだ」と言う。どうして。要領を得ないので、その電信柱まで一緒に引き返す。
その電信柱の下には側溝の蓋があり、その蓋には穴があいている。
幼稚園バスから降りて家までの10分の間に、おしっこが間に合わなくなると(バスに乗る前にトイレに行って来いというのに、忘れるんである)犬になった子どもが、その穴めがけておしっこして帰るのだが、その穴のなかに、紙きれ捨てたらしい。そりゃ、拾えないわ。
コンクリートの蓋だが、持ちあげてみると、たしかに紙きれ捨ててある。でも拾うには手が届かない。
一度、家に帰ることにして、「ばか、なんで捨てるの、おまえは悪いやつだ」と、ちびさん、ののしられて、「もうしません」とは言っている。
いつものマンホールのところに来ると(いつもそこでじゃんけんするのだ。私が勝ったら右の近道、ちびさんが勝ったら左の遠回り)じゃんけんしようと、ちびさん立ち止まるが、私はすたすた右へ行く。
「きみはママのいうこときかないのに、ママだってきみの言うこときかないよ」
ちびさん、すがりついて、「ごめんなさい、ごめんなさい」とおんおん泣く。泣く子をひきずって帰る。
さて、家に帰って、庭のトングをもって、電信柱までちびさんと一緒にもどって、側溝に落とした紙きれを拾いあげ、家まで持って帰った。

昔、小学校一年生のときだ、国語のテストを、点数がよくなくて気に入らなかったので、ぐちゃぐちゃに丸めて家の横のどぶ川に捨てたことを思い出した。そのテスト、まちがったところをなおして、翌日もっていかなくちゃいけなかったのに。次の日になってから思い出して困った私は、母に言った。テストもっていかなくちゃいけないんだけど、テストがないの。どうしたの。捨てたの。拾っておいで。でも拾えないの。
どぶ川に竹竿をつっこんで、母はひろいあげましたね。私のテスト。それを洗って、窓ガラスにはりつけて干していた光景を覚えている。
青緑色にひわっているテスト用紙に、まちがった綴りを書きなおして、その翌日、学校にもって行きました。

ああ。私の子どもだ。しょうがない。と思いながら、拾いあげました。側溝のゴミ。こいつ、絶対、テスト捨てて帰るわ。一度叱られたくらいで懲りるわけがない。


エレクトーンがやってきた。ちびさん、自分のエレクトーンだと主張するわりには、そっけない態度だが、パパが弾いている。ビートルズ。レットイットビーだとか、ヘイジュードだとか。ついでに歌ってる。


夜、ちびさん、お絵かきしていた。「ダンボールハウスのつくりかた」なんだって。1から14までの工程があって、その間に、一枚の段ボールが家のかたちになり、窓とドアもできて、家の前には車庫もできて、庭もあってニンジンも植えられている。
昔、折りたたみ式の段ボールハウスの設計図を、何かで見つけて、ノートにメモした記憶があるが、そのノート、どこにやったかしら、と気になったが、子どもと張りあってもしょうがないので、探さなかった。