チカップ美恵子さんの詩

  萌え立つ生命    チカップ美恵子

コンコンと湧き上がる泉
水底に根を張ってひたすら光に向かう青い葉
一片の陰りもない
やわらかな光と風はすこやかに育てと祈る
春日遅々
やがて来る波乱万丈の日々失念
突き刺すようにビュウビュウ吹き荒れる風
激しくたたきつける雨
大地を押しすつぶす如く立ち込める暗雲
振るえ打ちのめされそうな曇天続く
しかしそれでも花は生命の意地を見せる
つらい試練と闘い暁を待つ
志に打たれた陽気はさながら切り火
行く春をいとおしむ馥郁たる光から立ち昇る気品
うるおいと慈愛の抱擁
可憐に美しく萌えたつハスの花
生命輝く


☆☆

2月5日、昨日は、アイヌ文様刺繍家のチカップ美恵子さんが亡くなってちょうど一年でした。享年61歳というのをいまになって知って、胸が痛みます。ずっと以前にテレビで、アイヌ文様の刺繍を教えていた姿を覚えています。たくさんのことを知っている人のように思っていて、もっと年上の、母親たちの世代のように感じていましたが、兄や姉たちの世代なのでした。

詩は、アメリカ在住の水野崇さんが教えてくれました。この詩はチカップさんがなくなられる半年ほど前に、発表先を探してほしいという依頼とともに水野さんに送られた原稿のなかにはいっていたもので、未発表の詩だということです。とても心打たれたので、許可を得て掲載させてもらいました。

この国の近現代は、マイノリティの人々に、どれほど残酷だったでしょう。
「しかしそれでも花は生命の意地を見せる」
つらい闘病のなかで書かれた言葉を、受けとめていきたいと思います。

『カムイの言霊』チカップ美恵子著(現代書館)は、アイヌの大地が無言の空に向かって心をひらいているようで、アイヌの世界観や、「アイヌ・ネノ・アン・アイヌ(人間らしい人間)」の姿が、アイヌの言葉やカムイ(神さま)の物語から染みとおってくるようでした。遺稿とは知らないで、去年読んだのでした。