かるがもがころんだ♪

子ども、ピアノの発表会だった。
山口から、はるばる義父母さんもやってきた。

朝、パパが励ましていた。「かるがものカノン」っていう曲を弾くんだが、

「今日は発表会だから、今日だけはきみには失敗というのはないんだ。楽譜通りでなくても、どんなふうに弾いても、それがきみのかるがもの歩き方だからいいんだ。発表会っていうのは自己主張する場所なんだ、みんな、ぼくのかるがもを聞け、でいいんだからな。今日だけはどんなふうに弾いても、きみが正しい。」

うん。それはいい励まし方だ。子どもうなずいていた。

蝶ネクタイつけたかったらしいので、つけてやったら、それらしい格好にはなったが、この子どもが、ふつうにまじめな顔して演奏して、ふつうに終わる、ということは、なんだかないような気がした。この子ども、緊張してか興奮してか舞い上がってか照れ臭くてか、わかんないが、何かやらかすにちがいない。

舞台の上をロボットみたいにぎくしゃく歩くかもしれないし、一度でいいお辞儀を3回ぐらいするかもしれないし、と、それくらいは予想したし、
(実際、へんに大股な歩き方で、舞台に出てきたし、お辞儀は一回だったけど、一度天井をあおいでから、頭を下げる仕草は、やっぱりなんかへんだったが)

演奏をまちがう、ということはなぜか予想してなかった。

楽譜も読めない私からしてみると、子どもは楽譜もよめてすらすら弾けて、なんだかえらいのである。「かるがものカノン」は、右手のおかあさんかるがものあとを、左手の子どものかるがもがおいかけていくような曲なんだなと、それくらいは私にもわかるんだが、

本番で、いきなり、かるがもが、こけた。
あらら。練習のときには一度もこけたことがない場所である。
それでもって、次もこけて次もこけて次もこけた。音がつっかえるぐらいのまちがいは何人もしていたが、んー、こんなにみごとに転んだのはかるがもだけだな。
どうするんだろう、と思って聞いていたが、なんだか、かるがも起き上がる気配。一羽ずつ起き上がって、後半は、いつもより元気に、池のあたり歩いて行ったみたいだった。

なんか、笑いたくなった。この子ども、なかなかしぶとい。

「かるがも、ころんだのは、何羽ころんだの」
って、きいたら、「4わ」って言った。
「最初、どうしてあんな歩き方で出てきたの」
って、きいたら、「かるがもみたいにあるこうかなあって思って」。

賞の発表があって、優秀賞と優良賞と奨励賞が貼りだされた。子ども、派手にこけたにもかかわらず、優良賞もらっていた。
「失敗したって思ったけど、あきらめずに立て直していったからもらえたんだ」と子どもは納得していた。むずかしい曲ではあったらしい。

そけでも、かるがもころんだのは悔しかったのか、すこし泣いた。

まあいいことだ。
お婆ちゃんにお小遣いももらって、しあわせなことでした。