『わたしたちの涙で雪だるまが溶けた(子どもたちのチェルノブィリ)』 ①

『わたしたちの涙で雪だるまが溶けた(子どもたちのチェルノブィリ)』

チェルノブィリの子どもたちの作文集から。

第一章 突然の雨…



セシウムが崩壊すると
厳しい不幸に追い立てる運命が!
太陽の下には居場所を
僕は見つけられない
(ミコラ・メトリツキー)

☆タチヤーナ・クラコフスカヤ(17歳)

「あの恐ろしい夕方から八年間が過ぎた。私はもう十七歳になった。私の心は空っぽのままである。幸せは四月二十六日から、無限の荒野をさまよったまま元に戻っては来ない。私の心が現実を受け入れることはできないからだ。」

「祖母のオラピッチ村も死んでしまった。人間の生活が豊かに花開いていた土地に、いまいましい原発を建設しようと考えついた人が、今、生きていれば呪いたい。」

「翌五月二日は、南の風が気味悪い雨雲を運んで来た。どしゃぶりの雨だった。雨粒はとても大きく、インゲン豆ほどの大きさもあった。私たち子どもは、母が呼びに来るまでアンズの木の下で遊んでいて、ずぶ濡れになっていた。その後私はどうなったのか。放射能を逃れ治療を求めて、まさに放浪の旅だった。(略)放射能の悪魔が、私たちを引き回したのである。」

☆エレーナ・メリニチェンコ(17歳)

「町の人たちみんなが私たちの悲しみや痛みを理解してくれたとは言えない。彼らは用心深く私たちに接し、私たちをよそ者として扱った。」
「あるとき検査で父の血液分析の結果がよくなかった。その三ヶ月後に父は死んだ。一九八八年六月のことだった。」
「悲しみと痛みは私たちを襲い続けた。同じ年に祖母と伯母が亡くなった。強く恐ろしい衝撃だった。そして、母のもとに私たち六人の子どもが残った。母は一人で家族を支えなくてはいけなくなった。」

「おぼえておいて みなさん
原子力のある限り 平和も秩序も守れない
地球から汚れを一掃しよう
核の狂宴のあとを 残さないようにしよう」




暗黒の言葉が まるで黒い太陽のように
冷酷に ベラルーシの大空に のぼった。
それは あたかも黒い日食のごとくに
ものみなを黒く汚しつくした。
緑の草も 澄んだ水も 青い空も。
(ヤンカ・シバコフ)

☆エレーナ・ドロッジャ(16歳)

「母は小さいころから私たち兄弟に、正直な人になるようにと教えてきました。ベラルーシの国民が国家の重要ポストに選び、私たちの運命を託してきた人たちは、親からどんな教育を受けたのでしょうか。誰が彼らを選んだのでしょうか。誰が彼らに、嘘をつき真実を隠す権利を与えたのでしょうか。」

☆オリガ・アントノビッチ

「私たちはチェルノブィリの災害から逃れようとしましたが、それは私たちを逃しはしませんでした。(略)お母さん。私はあなたの本当の幸せをもう見ることはないでしょう。あの日からです。ミンスク放射線医学センターで、弟が甲状腺を病んでいることを知らされ、泣きくずれてしまった。どうしようもない不安が両親の心に居座った。それから弟の病気を治すために、地獄の苦しみを味わうことになるのです。(略)私の弟は、チェルノブィリの最初の犠牲者の一人になってしまいました。」

「サーシャ(弟)の机の上には折り鶴がのっています。ミンスクの病院を訪問した日本の医者がサーシャにくれたものです。遠いヒロシマの女の子のことを聞いてサーシャが泣き出したことを覚えています。(略)この恐ろしい悲劇の灰は、決して心の中で冷たくなることはない。」



チェルノブィリの灰を
塵のように
風が吹き飛ばす
どこに?
私たちはこの世の
黒い不幸のとりこだ
(ルイゴロ・ボロドゥーリン)


☆ナターリヤ・ヤルモレンコ(16歳)

「私は今十六歳で、もう七年間も甲状腺の病気をかかえ、ゴメリ腫瘍保険診療所に通っている。病気が悪化しないように、いつも薬を飲んでいなければならない。今が、人生のなかで一番楽しい時期のはずなのに、私の心は悲しみに沈んでいる。なぜ、私はこんなに苦しまなければならないのだろう。将来、私はどうなるのだろうか。チェルノブィリは、私から健康な体を奪った。そして、それだけでは足りないとでもいうように、私のふるさとをひきちぎり、私の親戚や知人を、遠く離れ離れに暮らさなければならないようにしてしまった。私たち一人一人の魂を堪えがたい苦しみと、片時も忘れることのできないふるさとへの思いが焦がしている。」

チェルノブィリは開いた傷のようなものである。事故による犠牲者は数え切れない。こんなつらい現実のなかで、親切な言葉や行動で私たちを支えてくれる人々の存在がどんなに大きな救いとなっていることだろう。彼らは、ベラルーシの子どもたちを療養のために外国に招待してくれている。不幸に国境はない。私たちの苦しみを黙って見ていることのできなかった世界中の人々が、私たちに援助の手を差し伸べてくれていることを、私は地に伏して感謝したい。」

「私たちの国をおそった不幸が、地球に住むすべての人への警鐘となり、同じような不幸が消して繰り返されることのないよう祈りたい。」


☆オリガ・ジェチュック(19歳)

「母は子どものように手の甲で目をこすり、泣き始め、問うのだった。「オリガ!何でお前が。何でお前が死ななくっちゃいけないの」私はただ唇を結んだまま、だまって途方にくれるだけだった。どうしていいか分からなかった。私はまだ一度だって死んだことがないのだから。」

チェルノブィリが語られるとき、私はなぜか巨大な原発、石棺、黒煙棒の山を連想する事もなければ釘付けされた家、野生化した犬、死と腐敗の匂いのする汚染地区の姿が現れてくることもない。私はただ、死んでいくオーリャ(白血病の入院仲間)を見つめているだけだ。」

「かわいそうなオーリャ。どうしたら、放射能が充満し、神さえも見離してしまったこの世に生きることが好きになれるの。人間の愚かしさに呪いあれ。チェルノブィリに呪いあれ!」