『わたしたちの涙で雪だるまが溶けた(子どもたちのチェルノブィリ)』②

『わたしたちの涙で雪だるまが溶けた(子どもたちのチェルノブィリ)』②

第二章 ゾーン、埋められた村



☆ミハイル・ピンニック

「あの森ではカッコウは鳴けない
不毛の森ではないのだが、もっとおそろしいことに
沈黙の森なのだ
おお 人間たちよ
気がついたのが遅かった
チェルノブィリは核戦争なんだよ」

「不幸は、レントゲンのように、一人ひとりの心を透かしてみせる。」

チェルノブィリによる苦痛は、子どもたちの夢のような療養のための外国旅行によっても静められないし、政府の住民への追加保障の約束によっても消し去ることはできないし、医者の楽観的な診断によってもやわらげることもできない。これらには全て嘘の印が押してある。」



☆ユーリア・トポルコーワ

「どんな「援助」も父を甲状腺の手術から守ることはできませんでした。でも彼だけとは思えません。母は、自分の腫れ物はみんなチェルノブィリによるものだと考えています。このことについて、私は話したくありません。」

「人の命は、私たちの国家のなかで最も価値のあるものではなくなってしまいました。人の命は、役人の自尊心と比べると無とおなじです」



☆リュードミラ・ラプツェービッチ

チェルノブィリの被害を分析するのは困難である。それを計測するのは不可能に近い。しかし、不幸は現実であり、誰の目にも明らかである。被っている被害は長い将来にわたって続く。」



☆オリガ・ゴンチャローワ(16歳)

「結局父は医療援助から見放されてしまったのだ。彼の具合が悪くなり、母は父のめんどうを見るために仕事をやめた。医務委員会が父を第一級の身体障害者であると認定したからだ。証明書には「チェルノブィリ原発事故の処理作業に伴う疾病」と書いてある。二年間、父は身体障害者であり、私たちは父の年金で生活した。」
「こうして、チェルノブィリは私から父を奪ってしまった。そのうえ私の誕生日さえも。父は私が14歳になったちょうどその日に死んでしまった。」

チェルノブィリ事故の立役者は、陰に隠れてしまった。今も、多くの人におしつけた大変な苦しみを思い出そうともせず、その責任をとろうともしない。(略)権力をもっている人の多くは、自分のことだけを考えている。(略)チェルノブィリの被災者は、役人どもが考えついた法律では生きていけない。」
「母が父の面倒を見ていた間は勤務継続期間になっていたが、元の職場に母の場所は残されてなかった。父の死後、母はやっと掃除婦の仕事を見つけた。この国の法律とはこんなものだ。」

チェルノブィリは、私の生活だけをだめにしたのではないことはわかっている。私の祖国ベラルーシの大地の三分の一を奪い去った。傷ついた私の祖国国民から、私は切り離されるものではない。ベラルーシの苦痛は私の苦痛であり、ベラルーシの運命は私の運命なのである。」



☆キリル・クリボーノス(15歳)

「不吉なチェルノブィリの影がぼくたち全員を包み込んでしまった。モギリョフではこの不幸を追わなかったところはない。唯一、クリチェフ地区だけが比較的安全な地帯だと考えられている。しかし、あくまで相対的な話にすぎない。この場所もすべて、放射能の「黒い斑点」の中にある。直接的な意味でも、比喩的な意味でも、チェルノブィリは僕の血の中にあると、僕はそう思い始めている。」

「1991年初め、共和国保険省から派遣された医師団が僕たちの学校を訪れ、医療検診が実施された。多くの子どもに甲状腺肥大が見られた。僕にもこの病気が発見された。」
「僕の心の中から抗議と絶望の叫びが聞こえてくる。」



☆ガリーナ・ユールキナ(15歳)

「ある日、おばあちゃんとお医者さんの話を立ち聞きしてしまった。私は重体で、肝臓が悪いということだった。私は肝臓が肥大していることを初めて知った。約二か月入院した後、医者の勧めるカザフスタンに行った。」
「しかしそこでも病から救われなかった。髪が抜け始めた私が、被曝していると分かると、誰も友だちになってくれなかった。それどころか、「よそ者」とぞんざいな言葉を浴びせられ、どんなに泣いたことだろう。」
カザフスタンにも長くは居なかった。体調はずっとすぐれず、目がまわり、よく倒れた。医者はなすすべを知らず、私はベラルーシに帰らざるをえなくなった。」
「その後私の体は、さらに悪くなっている。胃も腎臓も肝臓も悪く、甲状腺肥大も進んでいる。」

「まもなく16歳になる私に恐怖がつきまとう。病気と直面している恐怖である。突然変異についてよく耳にするが、自分の未来の子どものことも心配だ。その可能性があるのではないかと恐怖がひろがる。」

「みなさん、考えなおしてください。過ちは犯さないでください。原発をつくらないでください。核兵器をつくらないでください。ヒロシマチェルノブィリを思いだし、その結果起きたことを考えてください。子どもたちのことを考えてください。」