華氏451度
──本のページに火がつき、燃えあがる温度……。
「火の色は愉しかった。
ものが燃えつき、黒い色にかわっていくのを見るのは、格別の愉しみだった。真鍮の筒さきをにぎり、大蛇のように巨大なホースで、石油と呼ぶ毒液を撒きちらすあいだ、かれの頭のうちには、血液が音を立て、その両手は、交響楽団のすばらしい指揮者のそれのように、よろこびに打ちふるえ、あらゆるものを燃えあがらせ、やがては石炭ガラに似た、歴史の廃墟にかえさせるのだった。
それが任務のしるしである451とナンバーを打ったヘルメットを、非情の頭にかぶり、双の眼に、やがてくるものの運命を予想さすオレンジ色の炎を煌めかせ、手にした発火器の火花をまち散らすと、家はたちまち、あらゆるものを啖いつくす焔とかわって燃えあがる。夜空に、赤く、黄に、そして黒に。
ホタルが群れをなして飛びちがうなかに、かれは足を踏み入れる。なによりもかれがのぞむのは、古い笑話にあるように、棒のさきにつけた砂糖菓子を、暖炉のなかへつっこむことにある。死んだ書物は、ハトのような翅をひらめかし、ポーチの上へ、庭の芝生へ、落下してくる。なかにまた、火花の渦をまいて、空高く舞いあがるものもある。だが、やがてはそれも風に吹きとばされ、燃えつきると、くろぐろと地上に堕ちてくる。
焔に焦がされ、その照りかえしを受ける人々は、だれもがおなじに、はげしい笑いを浮かべるものだが、モンターグもまた、そのような笑いを笑っていた。
それも、いつものことで、役所へもどれば、鏡におのれのすがたを映して、そこでまた苦笑をもらすことになる。灰を浴びて、黒人の唄を歌う黒人歌手のように、まっ黒にかわった顔を映して。
退庁の時間がきて、くらい屋外へ出ても、火に似たその微笑は、顔の筋肉がつかんだまま、はなそうともしない。それは消え去ることがない。かれの記憶するかぎり、かつて一度も消えたことがない。」
☆
レイ・ブラッドベリ。
ほんの先日(6月5日だ)亡くなった。
中学生、高校生の頃、たぶん、スターウォーズの映画とか、そういうものと一緒になだれこんできたような気がしているけれど、SFブームのようなものがあって、友だちにすすめられるまま、ハヤカワ文庫あれこれ読みながら、ついていけないものも多かったが、ブラッドベリは好きだった。
亡くなったときいて、なつかしくて、さがしたら本出てきた。「華氏451度」「火星年代記」「ウは宇宙船のウ」「十月はたそがれの国」
読み返したいと思ったけど、文庫の古い本って、字が小さい。昔は平気で読めたはずなのに、今は読むのが難儀だ。単行本の文字なら、まだ大丈夫なんだけど。眼鏡をしても、外しても、ゆれるし、かすむし。
でも、すこし読む。
「華氏451度」の冒頭部分、書いてみました。こんな話。
http:// ja.wiki pedia.o rg/wiki /%E8%8F %AF%E6% B0%8F45 1%E5%BA %A6
☆
本を燃やすようになったら、次は人間を燃やすのだ。
作家のエリ・ヴィーゼルは、少年の日、アウシュビッツに移送された夜に、オレンジ色の炎のなかに幼児たちが放り込まれる光景を目撃した。
その方向だろうかなあ。
☆
大阪の中之島図書館を廃止へ というニュース
http:// www.tok yo-np.c o.jp/s/ article /201206 1901002 286.htm l
識字教室 10館廃止へ というニュース
http:// mytown. asahi.c om/osak a/news. php?k_i d=28000 0012061 80004
「子どもの家」事業も廃止の危機
http:// www.our planet- tv.org/ ?q=node /1372
「大阪府立国際児童文学館」はすでに廃止させられた。
http:// ja.wiki pedia.o rg/wiki /%E5%A4 %A7%E9% 98%AA%E 5%BA%9C %E7%AB% 8B%E5%9 B%BD%E9 %9A%9B% E5%85%9 0%E7%AB %A5%E6% 96%87%E 5%AD%A6 %E9%A4% A8
いまの府知事や市長に投票した人は、こんなことをしてほしくて、投票したんでしょうか。
☆
家のなか、本棚13個が、いっぱいいっぱいで、もう限界だし、本を処分しようと思っていたんだけれど、やめた。もうきっと誰も読まない、私も読めない、字が小さかったり旧字体だったりする文庫本とか、ザラ紙の、さわるとふちのくずれそうな古本とか、拾った本とか、もう再読しないだろうなという本とか、処分しようと思ったんだけど、やめた。
売ることも寄付することもできない本は、私と一緒にいてください。
ブラッドベリも、一緒にいよう。
──本のページに火がつき、燃えあがる温度……。
「火の色は愉しかった。
ものが燃えつき、黒い色にかわっていくのを見るのは、格別の愉しみだった。真鍮の筒さきをにぎり、大蛇のように巨大なホースで、石油と呼ぶ毒液を撒きちらすあいだ、かれの頭のうちには、血液が音を立て、その両手は、交響楽団のすばらしい指揮者のそれのように、よろこびに打ちふるえ、あらゆるものを燃えあがらせ、やがては石炭ガラに似た、歴史の廃墟にかえさせるのだった。
それが任務のしるしである451とナンバーを打ったヘルメットを、非情の頭にかぶり、双の眼に、やがてくるものの運命を予想さすオレンジ色の炎を煌めかせ、手にした発火器の火花をまち散らすと、家はたちまち、あらゆるものを啖いつくす焔とかわって燃えあがる。夜空に、赤く、黄に、そして黒に。
ホタルが群れをなして飛びちがうなかに、かれは足を踏み入れる。なによりもかれがのぞむのは、古い笑話にあるように、棒のさきにつけた砂糖菓子を、暖炉のなかへつっこむことにある。死んだ書物は、ハトのような翅をひらめかし、ポーチの上へ、庭の芝生へ、落下してくる。なかにまた、火花の渦をまいて、空高く舞いあがるものもある。だが、やがてはそれも風に吹きとばされ、燃えつきると、くろぐろと地上に堕ちてくる。
焔に焦がされ、その照りかえしを受ける人々は、だれもがおなじに、はげしい笑いを浮かべるものだが、モンターグもまた、そのような笑いを笑っていた。
それも、いつものことで、役所へもどれば、鏡におのれのすがたを映して、そこでまた苦笑をもらすことになる。灰を浴びて、黒人の唄を歌う黒人歌手のように、まっ黒にかわった顔を映して。
退庁の時間がきて、くらい屋外へ出ても、火に似たその微笑は、顔の筋肉がつかんだまま、はなそうともしない。それは消え去ることがない。かれの記憶するかぎり、かつて一度も消えたことがない。」
☆
レイ・ブラッドベリ。
ほんの先日(6月5日だ)亡くなった。
中学生、高校生の頃、たぶん、スターウォーズの映画とか、そういうものと一緒になだれこんできたような気がしているけれど、SFブームのようなものがあって、友だちにすすめられるまま、ハヤカワ文庫あれこれ読みながら、ついていけないものも多かったが、ブラッドベリは好きだった。
亡くなったときいて、なつかしくて、さがしたら本出てきた。「華氏451度」「火星年代記」「ウは宇宙船のウ」「十月はたそがれの国」
読み返したいと思ったけど、文庫の古い本って、字が小さい。昔は平気で読めたはずなのに、今は読むのが難儀だ。単行本の文字なら、まだ大丈夫なんだけど。眼鏡をしても、外しても、ゆれるし、かすむし。
でも、すこし読む。
「華氏451度」の冒頭部分、書いてみました。こんな話。
http://
☆
本を燃やすようになったら、次は人間を燃やすのだ。
作家のエリ・ヴィーゼルは、少年の日、アウシュビッツに移送された夜に、オレンジ色の炎のなかに幼児たちが放り込まれる光景を目撃した。
その方向だろうかなあ。
☆
大阪の中之島図書館を廃止へ というニュース
http://
識字教室 10館廃止へ というニュース
http://
「子どもの家」事業も廃止の危機
http://
「大阪府立国際児童文学館」はすでに廃止させられた。
http://
いまの府知事や市長に投票した人は、こんなことをしてほしくて、投票したんでしょうか。
☆
家のなか、本棚13個が、いっぱいいっぱいで、もう限界だし、本を処分しようと思っていたんだけれど、やめた。もうきっと誰も読まない、私も読めない、字が小さかったり旧字体だったりする文庫本とか、ザラ紙の、さわるとふちのくずれそうな古本とか、拾った本とか、もう再読しないだろうなという本とか、処分しようと思ったんだけど、やめた。
売ることも寄付することもできない本は、私と一緒にいてください。
ブラッドベリも、一緒にいよう。