象形文字

南国土佐ではないけれど、まあその周辺の、わりとあったかいところが産地である。いまいるところも、ずっと北のほうとくらべれば、ずっと南に位置して、ずっとおだやかな天候なのである。が、私はいままでの人生で、一番寒い土地で暮らしている。雪も降る。雪はめずらしいから、めずらしいものが降ってきたと思って楽しいので、めずらしくなかったら、寒いだけです。

昔、3月に四国に戻ったら菜の花が咲いていて、で、そのあと北海道に行ったら、吹雪いていた。鈍行列車乗り継いで旅していて、あれがどこの駅だったかわからないけど、夜に、どこかの駅で、地元のおじさんに声をかけられた。村に来てくれる嫁を探している、という話で、にぶい私は話が終わるころまで気づかなかったが、うちの村に嫁に来いと口説かれていたのだった。ああ、あのころまだ若かったのだ。無理です、と思った。こんな寒いところ、無理です。

寒いと体がいたいので、こたつにもぐる。こたつにもぐると眠る。眠ると何もできない。何もできないでいるうちに、子どもが学校から帰ってくる。

帰ってきた子どもの、連絡帳をみるのが、まずは楽しみ。
時間割、宿題、のあとに、その日の感想を書いている。

こないだの参観日のあとは、どうしてママは先に帰るのか、と泣いたあと書いたんだな。「さんかんびは、6じかんめか、5じかんめと6じかんめにすればいいと、おもいました」と書いていた。

で、今日。

「きょう、たいいくをしたのがたのしかったです。さむすぎてしにそうだと、おもいました。(グランドがさむいときはちゅうしにするか、たいいくかんで。)」

まず「たのしかったです」と書くんだ、なんでも。で、おもいました、と感想を書く。最近そのあとに、自分の意見が書いてあったりして、意見を書くときっていうのは、つまり怒っているんだ。

帰ってきた子どもは宿題をしなければいけない。
15分ですむぐらいの宿題が、広島から新幹線で東京に行けるぐらい時間がかかってしまう理由のひとつは、退屈だからなんだろうなあ。毎日もう、どろんどろんにだるそうなんである。そのどろんどろんにだるそうな子どもに、何度も何度も声かけするのは、こちらもどろんどろんにだるい。

ところで、こないだ、おじいちゃんに、今日はおもちゃはいらないから漢字の辞典を買ってほしいとねだって買ってもらった辞典が、最近の愛読書なんだが、子ども、退屈な漢字の書き取りの宿題に、漢字のなりたち、の象形文字を書き込むことを思いついたらしく、するとにわかに元気が出てきて、久しぶりに生き生きした表情で宿題すませましたっと。

あれこれの用事を、さっぱりなんにもすませていないのは私だ。ああ、子どもほどにも知恵がない。3時間で片づいたらえらいよな、宿題。こちらは、3日とか3週間とか。……ああっ、ごめんなさいっ。