読書メモ。
『出口のない夢──アフリカ難民のオデュッセイア』
クラウス・ブリングボイマー著 渡辺一男訳
「現在西アフリカを出発する者たちは、絶望し、希望し、夢見つつ、ヨーロッパに向かう。彼らのうちのごく少数がヨーロッパにたどり着く。多くの者は、監獄か収容所に入れられ、病気になるか死ぬ。」
ジブラルタル海峡では推定毎年2000人が死んでいる。だが海峡を渡るゴムボートが沈没しても、彼らが旅の途上にあったことは誰一人知らない。
ヨーロッパは国境を廃止した、ヨーロッパ内部では。しかし、外に対しては壁を高くする。
家族を置いて、辛い旅をして、ついにヨーロッパに着いたと思うのもつかの間、すぐに追放される。
奴隷制の歴史の傷痕は深い。植民地が放棄されて自由な国になったアフリカは、「損なわれた人間の大陸」になっていた。劣等感と隷属観をもった人間。植民地から独立を果たした多くの国で、革命家は独裁者に変貌した。多くのことがうまくいっていない。仕事がない、社会保険もなく賃金はひどい。若い男たちが郊外の塵埃のなかにすわっている。誰か成功しても、それを妬んだり分け前に与ろうとして、もとのレベルに引き戻す。連帯の結果の無気力。賃金は低く、身内によって成功が妨害されるなら働く理由があるか。
ガーナでは全人口の15パーセントが海外で生活している。医師やエンジニアも、商売で何らかの幸運をつかもうとする者たちも。国内のみじめな条件が人々を外へ押しだし、遠方の魅力的な条件が彼らを惹きつける。1700万以上のアフリカ人が故郷を離れて難民になっている。
「あなたたちヨーロッパ人はひどく残酷でひどく愚かだ、と思うことがある。ぼくたちの問題はあなたたちの問題であり、全員の問題だ。それは人類の問題なのだ。けれど、あなたたちヨーロッパ人はあなたたちのすてきな世界を享受するばかりで、他を顧みようとはしない。でも、もはやそうはいかない」
アフリカを脱出するものは、自身の経歴を変更する。最良の物語は同情を呼び、間違った物語は強制送還につながる。「いったん嘘の物語を語ってしまうと、人はそれに囚われて抜け出せなくなる。」「ぼくたちアフリカ人は嘘の世界に生きている。ぼくたちが自分の真実を見失ってしまうのは、一度嘘をつくと、その後は自分たちのことを誰にどのように物語ったか、いつも気にしていなければならないからだ」
いつも別の生活を夢見ているだけならば、人はいつ生きることになるのか。
一族郎党の門閥支配。汚職。国境兵たちの権力。貧困、暴力、飢え、困窮、売春、強姦、麻薬。出稼ぎ労働。引き裂かれる家族。教育水準は低い。湿ったゴミと腐った水。学校がなく保険がなく、本もない、きれいな空気もない。警察官は追い剥ぎ、一歩歩むごとに賄賂が必要なる。
万人の万人に対する恒常的な攻撃性。農村の貧困、都市への移動。
「アフリカの危機のパラダイム」
3つの構造的な要因がある。自然条件の厳しさ。歴史的な負の遺産。過去100年に人口が七倍になったこと。
3つの外的要因。原料輸出。国家と国家主権が人為的につくりだされている。種族に分けられるか、エリートと周辺的な大衆に分けられる。
3つの内的要因。難民、貧困、国家崩壊を伴う戦争。税金の浪費と汚職。独裁的な大統領専政による住民弾圧。
運営不能に陥った大陸。「統合力が欠けているために、たいへんなアイディンティティ・クライシスに陥っている崩壊寸前の国家があります」
種族間の戦争、狂信者たち。共同体感覚のない国ではハンセン病と戦うことは困難だ。病人は侮蔑され排外される。
一日の唯一の意味が、一度の食事のために並んで待つことにあるとしたら。
ベニンシティは、失業率90パーセントの女性売買の町。娘たちはヨーロッパの売春宿に輸出される。「夢や希望を持てば、たやすく犯罪に行きつく。悪い者たちがやって来て、微笑みながら、お前の夢をかなえてやろうと言う。すると彼らはあなたの人生を台無しにしてしまうよ。笑いながら。」少女の夢はシューズだった。きれいな靴。
ヨーロッパからの送金を18パーセントの手数料をとっておこなう銀行はアメリカの企業だ。
一人が出て行き、多くが残って出発するものを助ける。警官は難民から金をまきあげる。
待つことは難民の日常だ。それ以外には何もない。
金が尽きて動けない人間は路上で物乞いする。戻ることはできない。家族には拒絶され村人の笑いものになるだろう。若者たち、体力があり想像力豊かな者たち、最良の働き手たちが、空しく放浪する。何年も何年も。
ジョンは砂漠に置き去りにされた。トラックの運転手がいなくなって。何十人もが死んだ。渇きに耐えかねてガソリンを飲んで死んだ者もいた。ヨーロッパから強制送還され、モロッコの兵隊たちによってサハラ砂漠に置き去りにされた者たち。どれほど死ぬかわからない。彼らのことを誰も知らない。
だからアフリカでは、「彼が生きていること、そもそも存在しうるという事実だけでそれはもう彼の最大の勝利なのだ」
人口過多、水不足、飢え。モーリタニア。
長年の戦争で破壊されたリベリア。子どもたちも銃をもつことしか教えられなかった。受け継がれる憎悪の歴史。労働力と青春の浪費、空しく費やされる生。
難民は好まれない。世界じゅうどこででも。
身分証明書も現金も何ももたない難民。目に見えない存在。
しかし、アフリカには寛容を受け入れる基盤があり、傷を治癒させる力、難民を生み出すだけでなく、移動させる、包み込む力、生命力がある。
国境の町、段ボールの小屋でできた難民たちの町、人間的な共同体。「ザ・バレー」故郷に戻れない。ヨーロッパにも渡れない。彼らはここで助け合う。
サハラで死んだり海で死んだりする者たちのことは誰もわからない。モロッコやアルジェリアは難民をサハラに放置する。それに対してヨーロッパは金を払う。
地中海は危険。死んでゆくものたちの姿は見えない。
控えめであること無頓着であること、これが自分と他人の苦難に対するつきあい方だ。
地球上の50か国以上で2500万人以上が故郷もなくさまよっている。
ヨーロッパ域内での国境管理は少なくなり、一方で外部との国境は強化されている。
「テロルや戦争、環境破壊や病気が否応なくすべての人間に関わってくる事実は、グローバリゼーションの本質に存するのではないか?」 「偏見は敵対的イメージをつくりだす」「よそ者」と表記されれば、その人物が共感を呼び起こすことはなく、拒絶されても不思議はない。「よそ者」は不安を掻き立てるから。
だが、彼は生命に対する権利を訴えているにすぎない。
「ヨーロッパがヨーロッパに属さない人びとに対して人間的であって初めて、ヨーロッパは「ヒューマニズムという超国家的な国」なのです」
「強くて豊かな者たちが弱くて貧しい者たちを搾取しつづけるかぎり、われわれはこの問題を抱えて生きなければならないだろう」
「人間が緊急事態に陥ったとき、移動するというのは、人間の本性にもとづいている」
命がけでアフリカ大陸内を移動しヨーロッパを目指す者たちに、ヨーロッパは冷たい。
この世界において人間の生活がどうすれば可能になるか、未来の文化についての真の討論が必要。
自分自身を理解しようと思えば、他者を理解しなければならない。(ヘロドトス)
何かを理解するためには実際に現場にいなければならない(マリノフスキ)
最良のレポーターは思想家や哲学者であって、彼らこそ、今日の世界をなお把握しうるテキストの書き手である」(カプシチンスキ)