雪と手袋

木曜日、雪がはらはら降った。
子どもはいつものように、ポロシャツ一枚で帰ってきた。朝出るときはブレザーを着ていくのに、学校に着くと、なぜかすぐ脱いでしまうらしいのだ。ストーブもあるから寒くないというが、思うに、ブレザーがきらいなんだな。
それでも雪が降ったので、明日からはセーターを着ていくと言った。ズボンも長ズボンにすると言った。こういうことは自分で決めないとだめなのだ。
手があかぎれになっていて、薬ぬってやって、手袋も買ってやったが、翌日にはなくしている。買ってやったのは198円のだった。598円のを買わなくてよかった。それでまた買いに行ったが、売り切れている。……しばらく手袋はなし。

学校は昼までだったので、午後、はらはら雪の降るなか、街に降りて美術館に行く。前に来たときも雪だったと思う。1年前か2年前かよくわからない。ポーランド展。レンブラントの少女の絵など見にゆく。ああ、レンブラントはいいなあ。
これは300年前の絵、これは200年前の絵、と子どもに説明しながら、ずっとずっと前、高校生のときに、松山までわざわざバスに乗って、ルーマニア展を観に行ったときのことをいきなり思い出す。そこで見た絵のジプシー女のことなど。ふいになまなましく。
物語の登場人物のように、絵のなかの人物が、ある時期自分のなかに入り込んでくるっていうことが、あのころあったような気がする。
パパは聖堂の絵のなかに、街の物乞いの姿なども小さく描きこまれているのを、細部まで眺め尽くして楽しんで、子どもは、キュリー夫人の研究室のジオラマが気に入っていた。
カナレットのワルシャワの絵。ワルシャワが戦争で破壊されて、広島みたいになったあとに、この絵をみながら、街をもとどおりにつくりなおしたんだということを、なんとか子どもに説明しようとするんだが、うまく伝わらない。またいつか話してあげる。
常設展で奥田元宋の風景画を見たのもうれしい。うすいゆうやみの山と田んぼと川を描いた「待月」という日本画がことに好き。
でももしかしたら展示より、あっちいったりこっちいったりする青いチョッキの子どもの姿のほうが目に焼きついて、記憶に残るかもしれない。
手袋、きっと美術館でなくしたんだな。



ちょうど、佐藤弓生さんの歌集『薄い街』読んでいて、目にとまった雪と手袋。

 新世界交響楽は耳に雪触れくるようでしたか、ジョバンニ
 手ぶくろをはずすとはがき冷えていてどこかにあるはずの薄い街