もうひとつの地球

「ママ、どうして沖縄にオスプレイが配備されるんだと思う?」
って子どもが聞く。
彼が質問するときは、すでに自分で答えをもっていることが多い。
どうしてでしょうか。
「それはね、アメリカは戦争を放棄してないからだよ」

ああそうか。
そうですね。私たちは戦争を放棄できない地球に住んでいる。

どっか別の地球に行きたい。
でも私たちがどっか別の地球に行ったら、きっとそこもこの地球みたいになるんだろうなあ。

ドストエフスキーの「おかしな男の夢」っていう短編のことを思い出した。
自殺しようと思った男が夢のなかで、もうひとつの地球に行く。そこの人々は争いを知らない。嫉妬も貪欲もない。とても美しい心の人たちが住むところで、そこを訪れた男は、目覚めたあと自殺することをやめる。ところが、男が訪れたために、もうひとつの地球では、人々の心が汚れて争いが起こるようになってしまった。

……たしか、そんな話だった。

子どもの開いている乗りもの図鑑に、オスプレイ載ってる。あれこれ細かい説明書いてあって、暗記してる気配ですが、説明聞いても私はさっぱしわからん。
「ママ、オスプレイってどういう意味?」
何かの鳥の名前のはずですが…。
いま調べてわかった。ミサゴですね。

さて、少年。何十分も図鑑を眺めて、飛行機の絵をノートに何ページもかいて、うれしそうに喋り続けられるのに、どうしてたった10個かそこらの漢字を書く宿題するのが、毎日毎日、そんなに難しいんでしょうか。

「あ、ぼく、疲れて、休まないと無理」

帰ってきて、おやつ食べて、図鑑めくって、図鑑取り上げると、ママの膝の上に腹ばいに乗って「充電中」とか言って、その充電が、長いっ。
やっと取りかかっても、ちょっと目を離すと、机の上に飛行機、ミニカーあれこれ並べて、うっとり眺めてる。
取り上げると泣きますね。
かわいそうですが、ぐちゃぐちゃの文字は書き直し。

興味あることには極端に集中力があり、ないことには極端にない。

気持ちはよーくわかるんですけどね。やりたくないことをやるって、ものすごーくむずかしいんですけどね。
むずかしくなかったら、おかーさんだって家のなかもうすこし片づいていると思うけどもね。

ひとりで寝るのは無理だし、ひとりでお風呂に入るのも無理だと、すぐに涙目なんだけど、もう3年生なので、あと1か月もすれば9歳になるので、そろそろひとりでお風呂に入る練習。
ま、風呂場の戸を開けて、私が見守っているんですけど。
で、ひとりで身体洗う。いいかげんなもんだけど、上手上手とほめてあげる。ほめてる間は手を動かす。でも見てないと、どんどんさぼるだろうと思う。

子ども、なぜか合掌して湯船につかる。
「ママ、これは何でしょうか」
何でしょう。
ガンジス川の沐浴」

いきなり、家のなかにガンジス川が流れはじめた。

ほんとに。きみがいてくれて楽しいよ。
きみのいる地球がいいよ。