短歌総合誌にボツにされた作品について

朗読会のはじまる前に、奈良から来られた淺川肇さん(おいくつぐらいだろう、80歳くらいですか、でもなんと若々しい)から聞いた話。
某短歌総合誌から作品の依頼があって、送った。

 オハヨウとあんにょんはせよが飛び交いて海峡一気に渡る鶴橋
 在日のつらさ見せないひたむきさむしろわたしが勇気もらって
 国というたった一字で捨てられるヒューマニティっていったい何だ

など七首。いい歌と思います。
ところがそれがボツにされた。理由は、タイトルが「朝鮮学校無償化除外反対」だったから。

編集部から次のような葉書をもらった。
一部抜粋。

「今回いただいた作品「朝鮮学校無償化除外反対」ですが、よい一連であるとは思うのですが、○○○○という雑誌は公共的な立場にあります。淺川さんのお考えには個人的には共感するところではありますが、いろいろな考え方の方がおります。できれば他の作品と差し替えていただきたく、お願い申し上げます。
○○○○○さんにも、ジャーナリストの立場からご相談もいたしました。」

ショックで言葉がない。
この問題について、志を同じくする歌人として、ほんとにショックだ。
歌壇って、何ですか。

淺川さんさすがで、書き直して送って、それは載った。
「ドカッと」

 散歩道に俄かに建った信号機方向感覚失くしてしまう
 妖怪のような世の中昼日中作り笑いをみせる満月
 脳内に蛙あふれて雨を喚ぶからから乾く異国かここは
 信じられることが悉皆(みな)喪くなって スーパーでドカッと買物を しよう

淺川さん、手紙のなかで「朝鮮学校無償化除外反対」を歌っているのでボツにされたことは、「私はこれをジャーナリズムの自主性の喪失、腐敗と捉えています。」という。「書き直した方は、ジャーナリズムが何故、国権に味方するように表現を規制するのか、それを含める人間性の破壊をジャーナリズムに返信のつもりで発信したものです」
「私としては当面ジャーナリズムに直接抗議することなく、象徴化、心象化の課題を与えられたものとしてまた頑張って行きます。
日本の暗黒時代の発禁処分のことなどを思い、先人のご苦心を存分に推察する秋です」

 編集部に送った手紙の最後に、安成二郎の短歌を添えた、と言うので、どんな短歌ですか、と聞いたら、教えて下さった。

 言霊の幸はふ国に生まれきて物が言へぬとはウソのよな話  安成二郎

もうひとつある、という。

 豊葦原瑞穂の国に生まれきて米が食えぬとはウソのよな話

安成二郎、検索してみた。
(やすなり じろう)明治19(1886).9.19 ~ 昭和49(1974).4.30  享年87歳
荒畑寒村がこの2首(歌集「貧乏と恋と」(大正5年)所収)を、”ユーモラスで、しかも時代に対する皮肉で痛烈な風刺批評を含み、後世に伝えらるべき名歌である” と評している、という。

ほんとにウソのよな話だ。2010年秋の、この国の。歌壇の。

 オハヨウとあんにょんはせよが飛び交いて海峡一気に渡る鶴橋

いい歌と思います。こないだ行った大阪鶴橋の景色が生き生きと浮かぶ