星ヶ丘ゆき

kazumiの日常雑記

しどろもどろ

朝6時40分に息子は家を出る。7時10分に出ても間に合うのだが。小学生とぶつかるのがいやなのと、学校も楽しいのだろう。たぶん、まだみんなが来ていない時間の教室にひとりでいるのが、好きなのだと思う。

それで今朝も雨のなか、いつもよりたくさんの荷物をもって出ていったのだが、なぜか8時10分に帰ってきた。忘れ物だって。
バスを乗換えるときに思い出したらしい。それで、またバスにのって引き返して、バス停から家までの急な坂道を、大雨のなか、大荷物抱えて、必死でのぼって帰ってきた。
今日締め切りの提出ノートを忘れたらしく。
パパがいて学校まで送っていきましたけど、8時30分の始業に間に合うはずもない。中学最初の遅刻。書類書いたって。

あんな荷物抱えて、雨のなか引き返すなんて信じられない。でもたぶん、息子としては、提出物を忘れるマイナスと、遅刻のマイナスのどちらがより大きいマイナスかを考えて、引き返すことにしたのだろう。
電話とかできないもんかな、お金もテレホンカードももたせているのに、と思ったけど、バス停のあたり、どこに公衆電話があるかは、私も知らない。最近公衆電話本当に少なくなったし。スマホもケータイもない中学生とか、私とか、困るよね。

ノートの提出が遅れようが、遅刻しようが、どうってことはないのに、と思うけど、息子はそうは思わないから、朝から息を切らせていたわけだった。3回遅刻したら呼び出されるらしい、と気に病んでいるのがかわいい。
いい経験だけどね。



庭の金木犀の花が咲いて、雨のなかながら、かすかに匂う。昔、中学校の通学路に咲いていた金木犀のことを思い出す。通学路といっても、裏口につながる細い道で、建物の裏のすきまを潜り抜けるような、秘密の近道で、その道を通ると家から学校まで10分もかからなかった。にも関わらず、私は遅刻ばかりしていた。
なぜか間に合わないのだ。
裏口でつかまる。名前をチェックされる。それで、遅刻したものは休み時間に職員室の前の廊下で正座しなければならないことになっていたのだが、私、一度も正座に行ったことがない。職員室に来いと先生が言ってる、ってクラスの男子が呼びに来たことを覚えているけど、それでも行かなかった。
だって、職員室のあたりって行きたくなかったし、正座なんてまっぴらごめんだったし。
……という話をすると、息子は、ママ、信じられない、という顔をしていた。

なつかしい、あの通学路。
角の家の金木犀の花、裏道のぬかるみ、どぶの匂い、畑のほうれんそうに霜が降りていたこと、雪の朝、雷の午後。歩きながら読んでいた本。



ついでに思い出した。小学校4年のとき。教科書を学校に忘れて、宿題ができないと気づいた。母が、じゃあ学校に取りに行きなさいというので、日曜日だったけど、学校まで30分歩いて行った。
ところが教室のある建物の入り口の鍵が閉まっていて入れない。教室の窓も閉まっている。どっか入るところがないかと探していたら、床下の通気口が目にとまって、私は小さかったので、その通気口から床下にもぐりこむことができた。それでもぐりこんでみたけど、床下から教室に入ることはもちろんできない。
また外に出て、見てみたら、廊下のガラスが一枚、すきまがあって、そのすきまから手を入れたら鍵が開いた。それで窓をあけてよじのぼって、廊下に降りることができた。それで教室の入口に着いたのだが、今度は教室の鍵が閉まっていて入れない。
とうとうあきらめて、また30分歩いて家に帰った。

鍵が閉まっていて入れなかったと言ったら、母は、私が泥だらけなのを見て、どこで遊んでいたの、と言った。遊んでいたわけではないのだ、なんとか教室に入ろうと頑張っていたんだけど、床下にもぐったこととかは、言わなかった。なんか説明のつかないことを、自分がしている感じはしたんだった。
じゃあ先生に電話しといてあげるから、と母が言って、私はまた学校まで歩いた。鍵がどこにあるかは知っていた。職員室に行けばいいだけのことだった。その職員室に入るということが、私はなぜかどうしてもいやだったのだ。
でももう職員室に行くしかない。おそるおそる職員室をのぞいてみたら、誰もいない。私は鍵をかけてある場所から教室の鍵を探して、さっととって、教室に入って、やっと教科書を手にすることができたのだった。
それから鍵を閉めて、職員室の近くにきたら、なかから声がする。さっきは誰もいなかったのに、いまは人がいる。それでもう、職員室に入れなくて困ってしまった。ふと見ると、教員用の靴脱ぎ場にサンダルがひとつ脱いである。私はそのサンダルの上に鍵を置いて、それから走って学校から逃げた。
月曜日、学校に行ったら、「鍵を使ったら、もとあった場所に返しましょう」と担任が、みんなに向けて言った。私に向けて言ったにちがいないのだが、もし、直接私だけ呼び出されて注意されたら、耐えられないだろうと私は感じていたし、そのことを、この先生は知っているのだろうと、なんとなくそう思った。

たかが職員室なんだよな。なぜそれがそんなに恐ろしくて難しくて、あんなにたいへんな一日だったんだろうなあ。

学校って人が集まるところなんだけど、その学校で、人のいないところ、ひとりでいられるところを、いつもいつも探していた記憶がある。小学校の頃は、そういえば講堂の床下にももぐったし、宿直室の天井裏にももぐった。押入れの天井板が外せることは、自分の家で実験済みだったし。それから非常階段の裏、屋外トイレの屋根の上。中学高校の頃は、図書室の隅っこ。

ああ、でもいまも、PTAの用事で学校行って、事務室とか職員室とか、行くのいやかも。もう大人だから平気なふりするけど、叱られなければいけないような粗相はしてないはずだよな、とか、思わず考えているよね。

なんかなあ、しどろもどろで生きているわけだけど。