「春」という詩があった。なんだっけ。思い出せそうで思い出せない。「春」という詩ならこの世に数えきれないほどあるに違いないが、いま私が思い出したがっている「春」の詩はなんだっけ。もやもやの記憶の奥からようやく手繰り寄せた。


    春  芒克(マンク)

 太陽はその血液を
 危篤の大地に輸血した
 大地の体躯に
 陽光を流し込んだ
 そして死者たちの骨で
 緑の枝葉を成長させた
 聞きなさい 聞こえた?
 死者たちの骨から伸びた枝葉が
 花の杯をドンデンドンデンと鳴らしている

 これが春だ 

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なつかしいな。1988年初版。「億万のかがやく太陽 中国現代詩集」所収。

 



気づけばもう3月なのだった。忘備的に。
2月の最終週にパパは入院して左目の手術。このとき部分麻酔。簡単に終わるはずが終わらなかった。日曜日いったん帰宅して月曜日からまた入院。火曜日、全身麻酔で再手術。さすがにつらそうだったけど、3日経って、眼圧もさがって抜糸もできて、光もあるそうだから、順調、なのだろう。どうしても減らなかった体重が、入院と手術の数日の間に、あっというまに5キロ以上も減ったそうだから、よほど大変だったんだと思う。その大変なひとに、毎朝モーニングコールをかけさせていた私たち。
やっと新しい目覚まし時計を買った。

息子は定期考査で、考査のことなんか2週間も前からわかってんのに、どうして直前になって、しかも夜遅くなってから、がんばりはじめるのか。私は睡眠不足が心配。小さいころから夜眠らない子だったから、いつ睡眠障害にならないとも限らないと、私は考査の度にはらはらして、イライラして、無駄に疲れる。
音楽と技術と社会で1番だったらしい。よかったね。あとは……残念だったね。

漢検2級と英検2級に合格したのは、すごいな。本人的に、中3時の目標達成。

一貫校だから卒業式もなんにもないんだけど、中学校卒業の春、なのだ。信じられない。来月から高校生。

さいころ、散髪がきらいで泣き狂うのを押さえつけて、髪を切ってやったけど、今も彼は散髪がきらい。髪が伸びて、前髪が目をおおうほどになっても散髪に行かずにいたのが、やっと髪を切ってきたんだけど、本人的には「切られすぎて」ショックらしい。ちょうどいいくらいだけどね、ほんのすこしの変化が無駄に苦しい、のは私もそうなのでよくわかる。

試験も終わったので、私の友人がゆずってくれた、発達障害についてのコミックエッセイ数冊を、息子とふたりで読みふける。「結局、発達障害って何なんだろう」と息子。「脳の癖でしょ」と私。たとえばピクニックに行くのに、地図があると地図がないでは違うでしょ。脳の癖を知っておくっていうのは、地図をもってるみたいなことだと思うよ。地図は、あったほうがいい。

パパがいない間に、家の片づけと掃除をしたいと思って、まずは、調律師さん来るから、ピアノのある部屋から。これが1日がかり。部屋の隅から巨大な炊飯器が出てきて仰天する。パパに電話したら、町内会の集会所にあったやつで、もういらなくて、引き取り手がないので、持って帰ったらしい。いや、うちもいらないでしょ。
捨てたいものがたくさんある。たくさんあるけど、パパがいるときは捨てられない。「いつか必要になるかも」とか、「思い出だから」とか、いうから。
でもいないからといって、勝手に捨てるわけにもいかないし。
過去とか未来とか抱え込めるほど、余裕のある私たちではないと思うんですけどね。
でも、まあ私もあれこれ抱え込んでいるし。

道端でふきのとう見つける。隣の奥さんが、畑のふきのとう貰っていいかというから、好きなだけ採って、と返事する。今年はパパが入院しているし、息子は食べないし。わざわざ料理する気にならないし。でも道端で見つけたぶんは、ふきみそにして食べている。

春が来たね。

日曜日は街に降りて

土曜の夜から息子発熱。でも日曜は午前中に駅に、午後から英検の二次試験で、すこし遠い高校へ、行かなければならない。ので、行く。

だいたい朝はやくから、もよりの駅の窓口に行かなければならないのは、電車の切符を取るためで、1か月前の朝10時すぐに、指定券の予約のキーを打ってもらうために9時半に行って、申込書を書く、という。
春休みに、「ムーンライトながら」大垣発東京行に乗って、東京行くんだって。
行くのか、東京に。青春18きっぷで。
座席とれなきゃいいと思ってたけど、取れてしまった。
青春18きっぷで。東京まで。母を連れて。
20年前なら、私もやってたけど。帰省先の宇和島から東京までは朝6時に出て翌朝6時に着くという、だるさだったけど。やってたけど私も。
……ああ。

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それから広島駅まで出て、うどん食べて別れた。別れ際のそそくさ感が気になって、見に行ったら、ホームで写真撮ってた。どうやらサンフレッチェのラッピング電車のお披露目らしく、副市長が挨拶などしていた。それでカメラをもった一群の男の子たちが溜まっているのだった。
熱があるから、寄り道せずに途中で遊ばずに、切符の予約して、試験だけ受けて帰って来いと、パパにも言われていたのだが。まあ、彼の進路に、ラッピング電車がたまたまあらわれたのだろう。ということにしといてやろう。一応、試験落ちたら、東京行かないからな、と釘は刺しておいた。
そこには、試験に行くのでもなく、約束もしていないが、ときどき一緒に遊びに行く電車仲間の先輩もあらわれて、楽しいひとときを過ごしたそうでした。

私は息子と別れて、市電に乗って、文学フリマに行った。友人がスタッフしているというので、彼に会いに。詩歌のコーナーあたりは、知人の知人のそのまた知人の人たちが、いらっしゃった。なるほどこれが、文フリというものか、と面白かった。
ガラスペンというものをはじめて見た。存在は知っていたんだけど。ためし書きさせてもらった。すごくいい。一度インクをつけるとはがき一枚くらいは書けるらしい。それにこれは、万年筆みたいに書く人の癖がつかないんじゃないかな。
私の気に入ったのは2万円するそうでした。縁がないね。

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それから、現代美術館まで歩く。天気のいい日だったので、山の上はいろんな人がお散歩していた。昨日最終日の松江泰治の写真展、招待券もらったので見に行く。
面白かった。いろんな地域の地形の写真、街の写真、街と同じように撮られた墓地の写真。墓地の写真も街のようで。奇妙に、何か共通するひとつのリズムがあるようだった。人の住まないところも、住んでいるところも、死んだ人の場所にも。

それから電車に乗ってバスに乗って、坂道のぼって帰る。川縁に梅の花盛り。

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月曜日、朝、熱さがっていたので、学校に行かせる。そのあと、パパは病院へ入院しに行った。明日、息子は模擬試験らしい。たぶん、もう熱は大丈夫じゃないかな。午後からはPTAの進級の説明会で私も学校に行かなきゃいかん。パパの目の手術が夕方から。
すべてつつがなく、ゆきますように。私に、悩んだり心配したりの気力はないので、よろしくお願い。

遠い青春の裏小路から

twitter.com

 

という記事を見かけた。
それはない、というか信じられない思い。それはもう、だめなんじゃないかな。

1年ほど前に、セクハラスキャンダルのせいで、高銀が書いた日本軍慰安婦を追悼する詩碑が撤去された、というニュースもあったけど、それは撤去が自然、と思う。高銀のノーベル賞もないだろうな、と思う。

でも「親日詩人」が理由で撤去、はどうかしてる。愚かとしか思えない。

 

手もとに、徐廷柱(ソ・ジョンジュ)の詩を収録してある本が何冊かあるので、ものすごく久しぶりにめくる。埃くさくて咳が出る。
「朝鮮詩集」「再訳 朝鮮詩集」「未堂・徐廷柱詩選 朝鮮タンポポの歌」「現代韓国文学選集5 詩集」

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一番好きな詩を書いておきます。「朝鮮タンポポの歌」「現代韓国文学選集」所収。撤去する?という詩は、これではないかと思う。金素雲の訳。

     菊の傍で   徐廷柱 (訳 金素雲)  

 一輪の菊を咲かそうとて
春からホトトギス
あんなにも啼きたてたのだろうか。

一輪の菊を咲かそうとて
雷は黒雲の上で
あんなにも轟き渡ったのだろうか。

つきせぬ心の名残りを
遠のいた若さへとどめて
いまは立ち帰り ひっそりと鏡の前に立つ
わが姉によく似た花よ。

黄色いその花を咲かそうとて
それでゆうべは あんなにも初霜が下り
それでわたしを 夜っぴて寝つかせなかったのだろうか。

 

金素雲の訳から半世紀ぐらいは過ぎたのだろうか。最近だと思う、ネットの検索で見つけた蓮池薫さんの訳が、すごくいい。


 菊の横で

     徐 延柱    蓮池 薫 訳


 一輪の菊を咲かせんがために
 春からコノハズクは
 あんなにも鳴いたようだ

 一輪の菊を咲かせんがために
 雷は黒雲のなか
 また あんなにも鳴ったようだ

 恋しさ無念さに胸締め付けられた
 遠い青春の裏小路から
 いま戻って鏡の前に立つ
 わが姉のような花よ

 真黄色いおまえの花びらを咲かせんがための
 昨夜は初霜があんなに降り
 私も眠りにつけなかったようだ
 

 

遠い青春の裏小路から……。万感迫る。

竜の背中が見える

一日遅れのバレンタインのケーキ。冷凍イチゴと冷凍ブルーベリーがしゃりしゃりしていた。

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息子いろいろと頑張った。ピアノは銀賞だったし。英検2級の一次試験通ったし。これは私は、厳しいんじゃないの、と思っていたのに、蓋をあけると余裕だったので驚いた。ライティング94%って…。彼はもう、私の理解を超える領域を歩いている。


国語のセンター試験、今年のはさんざんだったので、でもなんとなく、考え方のコツはわかったかも、というので、息子、去年の問題に挑戦。私もつきあう。
するとさ、息子130点で、私が120点だったのだ。あらら。国語で負けたらもう勝てる教科は何もない。しょんぼりしてたら、息子がなぐさめてくれたよね。「漢文以外はママのほうが勝ってるよ」って。
私、漢文はもう、集中力つづかなかった。難しいし無理、考えるの無理で、このあたりなんじゃないのとカンで選んだのがことごとく外れたんだけど、息子も、全然わかんないから、適当に選んだら、半分くらい当たったんだって。ふーん、いいな。

いや、でも去年の国語、難しいよ。友人の娘さんが、これを9割とったというんだけど、それはおそろしい。ちっちゃいころに、ひたむきに本に見入ってた姿を覚えてるけど、きっと彼女には竜の背中が見えたんだろうなあ。

と書いて、竜の背中が見える、という言い方があるのかどうか、わかんないので、説明すると、息子のパパが、ものごとの道筋みたいなのが、はっきり見えることを言うときにそういう言い方をするのだった。

竜の背中に銀色の細い道が見えてくるようで、迷わずにそこを歩いていけばいいとすっきりわかるようで、いいなと思う。

夢を見た。
部屋を借りて住んでいるんだけど、それが、すごく小さな小屋。カプセルホテルのカプセルくらいの。天井もそれくらいの高さで。しかも段ボールハウスっぽくて、ぼろぼろで。しかもそれを友だちとシェアしているという。つまり1人が寝に帰っている時は、1人は働きに行き、交代でそのねぐらを使っているのが、なんかへんなリアルさだった。
で、そのねぐらから、仕事に行くんだけど、仕事はすばらしかった。なんかすごくきれいな日本画があって、海と船の絵なんだけど、それを模写するという仕事で、その模写がまたすごく美しい作品になって、私こんなにすばらしい仕事ができるなんて、と、ものすごくしあわせだった。

ああ、竜の背中が見えるといいな。

 

 

 

注文生産制?

連休前の教室では、男子たちが、「チョコレートほしい、チョコレートください」と、にぎやかだったらしい。
連休明けの教室では、注文を受けた女子たちが、早々と配給をはじめていたらしい。
チョコレートは、家で普通に食べれるし、いらねーよ。そこに女子が介在すると面倒くさい。
と息子は言っている。
「頼んでないの? 頼んだら、だれかもってきてくれるよ」と女子に言われたが、「いいや、結構です」と答えた。その女子、また別の男子(合理主義者、と呼んでいる)にも「あげようか?」と声をかけていたが、合理主義者は「いらない」と断っていた。

注文する男子と注文しない男子がいるのだった。
でもさ、バレンタインのチョコレートって、注文生産制なの? そういうもんなの?

チョコレートつくりたい女子と、チョコレート食べたい男子がいて、まあ、平和にまわってる、わけか。

でも翌日、注文していないのに、息子はチョコレートをもらっていた。なんでも、息子と仲のいいMくんが出した注文をチビちゃんが受けて、つくってもってきたんだが、「チョコレートもらってないひとが一緒にいるのに無視するのはかわいそうだし」で、ついでにくれたんだって。

ほんとに平和にまわってる。

私、チョコレートケーキの注文もらった。息子から。

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技術の授業でロボットつくってるらしい。ごく小さい機械が、スイッチを入れると、前に動いたり後ろに動いたり、ぐるっとまわったりする。
それはそれだけでいいはずなんだけど、息子、それにバスのはりぼてをかぶせた。最初は紙製だった。ところが友だちのKくんはプラモデルの戦車をかぶせていた。どうも見劣りがするので、プラ板を切ったり貼ったりして、つくりなおしていた。JRバス。
んー。上手なんだか下手なんだか。こんなことやってるのは、息子とKくんだけらしいけど。センサーが使えるようにするにはどうするか、とか課題もありながら。

バスも平和にまわってる。

 

 

やむにやまれぬ

インフルエンザ猛威で、連休が連休になった。予定されていた休日の授業が中止になったらしく。大喜びの息子は、土曜の朝一番のバスで出かけていった。雪も期待したらしいけど、雪降らなかったけど。
数日前に、先輩から列車の運行時間がメールで送られてきて、それからもう、そわそわそわそわ。といって先輩と一緒に行くわけでなく、ひとりで行ってひとりで撮影して、ひとりで帰るんだけどね。電車に乗ってどこかに行くならともかく、走るのを見るだけって、何が面白いかさっぱりわからん。さっぱりわからんが、出かけて行きたい、やむにやまれぬ気持ちは、わかんないでもない。

海田市駅1番線の早咲きの桜・緋寒桜 - YouTube

同じように電車を撮っていたよその高校生と、言葉すくなに挨拶をかわしたそうでした。

ところで息子、最近気づいたことがある。クラスでにぎやかな女子は、なんといっても洪水ちゃん、ついで、ワクワクちゃん、とでもしとこうか、何かツボにはまると笑い人形になる子がいる。席替えで、ワクワクちゃんが隣になったが、そのとき、え、この人の隣?といかにもつまらなそうな顔をされた、らしい。以来、ワクワクちゃんがなぜか授業中しずかである。洪水ちゃんも自分の隣の席のときは、なぜかおしゃべりが少ない。うるさくないのは、助かるんだけど。

学校でどういう態度でいるわけ?と聞くと、「基本寡黙」と言う。男子の友だちは基本オタク。そりゃわかる。女子とはどういうやりとりするわけ?たとえばノート見せてって言われたら?黙って差し出す。返してもらったら?…無言。
そりゃあつまらん。チッ、とか舌打ち聞こえてきそうだよね。「それだよ、それ。ぼくは休んでた子にノート貸してあげたのに、返すとき、何か不満そうなんだよ」
いやいや、あんたが、ものすごくつまんなそうな顔してるんだって。

「だって、何話せばいいかわからんやん」と言う。そりゃまあそうだ。

不機嫌そうな男子である。つついたら、にゃあ、と鳴くことは、いまのところ、私しか知らない。

 

 

 

 

週末

土曜日、息子は「メンタルこわれるの模擬試験」など受けに行った。難しいやつらしい。親は模擬試験代をもっていかれて財布がさむい。数学は40点はある、とか言ってるが、それ以上はなさそうかも。前回は20点台だった記憶だ。

テストの内容が数Ⅰと数Aだったというから、日曜日、センター試験の数学をやらせてみた。数1Aは51点。でもそのあとやった数1は91点。わかっているのかいないのか。私は、むり。不戦敗。

でもまだ、中三生なんだよなあ。なんでこんな難しいことさせられてるんだろう。

夜、ビーフストロガノフというものを食べたい、と言う。そいつ何もの。牛肉の残りがあったので、手伝わせてつくる。できたものを、本当はなんて呼ぶべきかわからないが、ふつーにビーフシチューっぽいが、写真も撮り損ねたが、何か美味しいものができたので、満足な週末でした。