ヨnglish


 お風呂のマットはプーさんのアルファベット。湯につかりながらぼんやり見ていて、逆さに見ていたから、Eはヨだった。

 中学生になったとき、私はアルファベットの読み書きができなかった。なんといってもはじめてアルファベットを見たのだ。小学校のときにローマ字を習うはずだが、私は習っていなかった。たしかローマ字は3学期の授業で、私はそのころ冬は喘息がひどくなるせいで、3学期は欠席が多かった。
 アルファベットは難しかった。私はEとヨの区別がつかず、bとdは、どっちがどっちかいつもわからなくなり、SとZの向きに迷い、NかИか、RかЯか、とにかくさっぱりおぼえられないのだ。
 テストに ヨnglish と書いてはねられたとき、綴りはあっているのにどうして×なのか、教科書と見比べてみてさえ、なかなかわからなかったことを今も思い出す。もちろん正しくは English である。

 アルファベットでつまずいて以来、英語嫌い。高校1年のとき、100点満点のテストで8点だった。マークシート方式だから鉛筆を転がしたってもうすこしましな点数が出そうなもんなのに。受験科目に英語のない大学はないといわれ、泣きながら勉強した。問題集を開くと、英文の最初の一行目から、なんにもわからないので、涙が出てくるのである。
    大学に入って、もう英語なんか見たくないと思った。幸い必修ではなかったので英語を選択せず、いまや私の英語力は落ちるだけ落ちている。それでも英語を聞いたり話したり、書いたり読んだりする必要に迫られることはあって、その度に難儀する。
 キーボードもひらがな入力ローマ字入力を覚えろ、とよく言われるが、アルファベットを前にすると、どうも頭も手もひきつけてしまうのだ。

 アルファベットの起源は、5000年前のフェニキア人の文字らしい。ひらがな、カタカナ、漢字、の夥しさに比べると、たった26文字のアルファベットは良心的。そのたった26文字に、なんで私はつまずいたか。