49日


 雪はすこしちらついたけれど、天気はよかったので、午後、もらった野菜と川で摘んだクレソンを手土産にもって、市内へ降りる。F老夫婦のところも、学生の頃のバイト先のお店も、去年の秋と暮れ以来。

 Fさんのところへ行くと、おばさんは、2月はずっと入院していて28日に退院したばかりという。「生きてまた会えてよかったわ」と言う。かなり深刻だったのだ。胸をどん、と突かれた感じがする。全然知らなかった、と言うと、だれにも知らせなかったから、と言う。私の子どもに、孫のおさがりの絵本をとっておいたのをくれる。それからフィルムケースと和紙でつくった小さなお雛様。

 お店に行くと、ママが「まあ、今日がちょうど49日なのよ。こんな日に来てくれるなんて」と言う。一瞬なんのことかわからなかったが、ずっと病気だったお婆ちゃんが1月に亡くなっていたのだった。私が学生の頃は、とても元気で、毎日お店に出て働いていたお婆ちゃんだった。

 お店のマスターは私たちが食べたお好み焼きの代金を受け取ってくれないばかりか、チキンライスまでつくってお土産にもたせてくれる。別の常連さんにも、留学生のようだったけれど、「今日は卒業祝いだからいらないよ」と言っていて、商売は大丈夫なのだろうか。子どもはマスターのあとをチョロチョロついてまわって、足手まといなことだった。
 「毎春、クレソンは楽しみにしているんだ」と言ってくれる。

    豪雪の冬といえ、歳月はフリーズしない。生老病死めくるめく地上。
 夜、帰宅して、お雛様を靴箱の上に飾った。すこし桃の節句の気分。とはいえ、まだ梅も咲かない。