女王が踊るよ


 あの夏、避難センターの子どもたちと、「女王が踊るよ」と歌いながら、ミストラルの詩を思い出していた。といっても、長い詩なので、もちろん全部はおぼえていないし、思い出せもしない。ただタイトルと、一番最後のフレーズを、毎日毎日思い出した。
 毎日毎日、汗びっしょりになって遊んでいた (倒れるまで遊ぶつもりだった)。 目に汗が入って痛かった。輪になって「女王が踊るよ」と歌って、輪のなかでくるくるとまわって、たったそれだけの遊びを、毎日何十回も繰り返していた。2歳くらいの小さな子から10代半ばの女の子たちまで。もしかしたら、永遠に続くんじゃないか、と思うほど、夢中で。
 あのときの少女たちを、まるで同級生みたいになつかしい。少女たちの何人かはきっと、もうお母さんになっているだろう。


  わたしたちはみんな女王になるものと思っていた
                 ガブリエラ・ミストラル

わたしたちはみんな女王になるものと思っていた、
海辺の四つの王国の、
(略)
百、あるいはもっとたくさんの山々に
取りかこまれた、エルキの谷間で。

いつも夢ごこちでそういっていた、
わたしたちみんなが女王となる
海までたどりつけるような王国が、
わたしたちには本当にあったのだ。
(略)

わたしたちはみんな女王になるものと思っていた、
うそいつわりのない王国の、
けれどもだれも女王にはならなかった
(略)

けれども、百、あるいはもっとたくさんの山々に
取りかこまれたエルキの谷間では、
新しくやってきた女の子たちがうたっている
また これからやってくる女の子たちがうたうだろう

〝この大地のうえで わたしたちは女王になる、
うそいつわりのない王国の、
わたしたちの王国は大きいから、
わたしたちみんな 海までゆけるの。〟

   (『ガブリエラ・ミストラル詩集』田村さと子編・訳) 

  (略)にかかれているのは、空想した王国の話、それから4人の女の子たちの (女王にはならなかった) 人生の話。