台風一過

 台風一過の18日の朝は、雨もやんで予定通り、町内会の大掃除だった。山から飛んできた葉っぱが道に散らばって、それなりに掃除のし甲斐はあった。
 午後から、山口の義父母のところへ。空をヘリコプターが飛んでいるのは、大雨で行方不明になった記者さんがまだ見つからないのだ。川のあたりも、消防車が出て探していた。いつもの川沿いの道を走っていたら、予想はしていたけれど、途中で土砂崩れのため通行止め。違う道を通ることにする。海沿いを走った。瀬戸内海の上を、いちめんのいわし雲が流れていった。
 
 山口の義父母のところは、台風の間、まる一日停電していたらしい。おじいちゃんおばあちゃんのところには、従姉弟たちが遊んだおもちゃがあれこれ残っていて、子どもはそれで遊ぶのが楽しい。
 翌朝、子どもは「アルプスの少女ハイジ」のビデオを見つけて、それを見るという。ところが、はじまってしばらくすると、部屋の外に出ていく。見ないのかと思ったら、隣の部屋からこっそり見ている。ときどき近寄ってくるが、またすぐに出ていく。内容はまだ難しいし、楽しくないのだろうと思っていたら、夕方、片付けたビデオをまた出してきて、これ見る、という。今度もやっぱり部屋の外に出ていく。ドアの後ろから見ている。直視できない場面があるのかもしれないよ、と義父が言う。そういえば、家で毎日見ている「となりのトトロ」も、まっくろくろすけがたくさん出てくる場面は、部屋のすみまで後ずさりして見ている。
 さてその翌朝も、子どもは「ハイジ」のビデオをもってくる。今度は、ドアのあたりまで後ずさりしながらも、かなりの場面を、部屋のなかですわって見ている。ところどころはセリフも覚えているらしく、真似して言う。ああそうなの、「ハイジ」を攻略すべく、きみは格闘していたわけでしたか。ハイジとクララの別れの場面を、とても真剣な顔をして見ている。それらの画面ひとつひとつに向き合うことも、小さなきみにはたいへんな闘いなのかもしれない。ほんとうはたぶん、大人にとってもそうであるのだけれど。
 
 稲穂の金色。すすきの銀色。山のふもとや田んぼの畦に彼岸花が咲いて、車は、きれいな秋の景色のなかを走った。
 
ごんぎつねどこにもゐないあかるさとさびしさのなか子は駈け遊ぶ (伊藤一彦)